「俺のことまで心配してくれたんだろ?」と聞けば「まあ、元婚約者だし?」と素っ気ない返事。でも、彼女のやさしさは十分……いやというほど知っている。
「今の俺は葵ちゃんにしか興味ないから」
「あ。ソーデスカ」
「俺にとっても、もちろんあいつらにとっても。葵ちゃんはもう大切な存在だ。だから俺は、絶対に諦めないよ。……絶対に枯らさないから」
キサは何かを言いかけて……それを飲み込んでから、何ともいえない表情を浮かべた。
「ま、頑張りなさい。これあげるから」
「は?」
そう言ってキサから送られてきたのは、まさかのドレス姿の彼女で。
「ミスコンに出たの。そして見事優勝を奪い取ったの、あっちゃん」
「そんなの当たり前じゃん。俺の葵ちゃんより可愛い子なんていないし」
「あんたのじゃないけどね」
けれど、スマホを見ていて気が付いた。
「ん? どうかした?」
「この頃は変わった前? それとも後?」
「……この時はまだ、変わってない」
「そっか」
だから彼女は、こんなにも儚く見えるのだろう。
「お前らもう風呂は?」
「あんたたちがご飯食べてる時にみんな済ませたけど」
「俺も入ってこよ。明日明後日は親孝行しないといけないし」
「え? あっちゃんはどうするの?」
「……お前ら、葵ちゃんの邪魔はしないんだよな?」
「うん。見守ってあげることにしてるから」
だったら言っても大丈夫だろうと、彼女が明日から寺へ修行しに行くことを伝える。
「えっ。本気で修行する気だったの……?」
「ああ、そう言ってたけど」
「置き手紙は嘘じゃなかったのか……」と、キサは頭を抱えていた。
「そういうことだから、その後。帰るまでは俺が葵ちゃんとデートする予定だから、もう邪魔だけすんなよ」
それだけ伝えて、トーマはきっと今頃荒らされているだろう母屋の自分の部屋に戻っていった。
「え。何あいつ。また勝手に妄想言い始めたの?」
もちろんキサには、トーマが勝手に言ってることで、葵の許可が下りていないことはお見通しだったわけですが。
「仮にできたとしても、そのデートはきっとたくさんの人たちに監視され……じゃなかった。見守られるだろうな」
もちろん、邪魔はするつもりないけれどと呟いたキサも、みんなのことが気になったが。それよりもあの後の結婚式がどうなったのか気になったので、再びDVD鑑賞を続けたのだった。



