「――いって」
「と、トーマさん?」
トーマの頭に何かが当たった。
初めは、彼も困惑した表情で頭を掻いていたけれど。
「あーそういうこと。へえー。なるほどねえ……」
次第に状況を察したのか、魔王様がチラリ。
そもそも何が当たったのかと辺りを見回すと、カーテンの近くに何かを発見。
「……飴?」
いちご柄の包み紙の飴を拾った葵は、取り敢えずポケットに入れておいた。
そのあと「ちょっとまた動物の躾に行ってくるから、葵ちゃんは早く寝るんだよ」と、魔王様を装備してリビングを出て行った。
リビングに残った葵は、束の間ガラス戸を開けて外へ出ていた。
空には大きな満月のお月様。
何も言わずにただ真っ直ぐに、何かに恋い焦がれるような横顔で、その月を見上げて。
「……強く。ならないと。頼ってばかりではダメだから」
左手首のミサンガに手をそっと添えたあと、部屋に戻った。
そして、落ちていた飴を口に含み、道着に着替え、便箋を持って道場へ。
時刻は夜の11時半。自由に使ってくれて構わないと許可をもらっていた葵は、道場に来てまず座禅を組み、精神統一を行う。何をするでなく、ただそのままの状態で集中力を高める。
15分が過ぎ、体を動かすのかと思ったら、葵は誰宛なのか手紙を書き始めた。そして何度も書き直していく。こうでもないああでもないと、何度も何度もやり直した。
それでも何とか……日を跨ぐ前に書き終えた葵は、酷い脂汗をかいていた。息も荒く、指先も冷たくなっていて。
「はあ。はあ。……っ」
徐々に言うことを聞かなくなっていく体に活を入れ、それを封筒に入れ、きちんと封をして大事に抱える。
「……っ。よ、かった。かけ――……」
そしてそのまま、葵は意識を手放した。



