「……今のわたしでは、トーマさんを幸せにすることはできません」
トーマは何も言わなかった。
ただ葵の言葉を、聞き漏らさないよう耳を傾けていた。
「今のわたしは、誰に好意を向けられてもそれに答えることはできません。トーマさんが仰った通り、わたしには残された時間が少ないから。わたしが嫌なんです。そんなわたしと一緒にいさせてしまうことが、苦しいんです。つらいんです」
だから葵は、初めて会った時のように一方的に話した。
「トーマさんにそう言ってもらえたこと、本当に嬉しくてしょうがないんです。トーマさんは『わたし』のことを少しだけど知っていたのに。残りが少ないわたしを幸せにしたいと、そう思ってくれたことが」
前に、言ったでしょう? 人一倍やさしいあなたには、幸せになって欲しいって。……だから。
「幸せに、なってくださいトーマさん。あなたが幸せなら、わたしも幸せです」
葵はにっこり笑うだけ。
「……伝わり、ました?」
「うん。もう十分すぎるほど。今の葵ちゃんの気持ちが伝わってきたよ」
それはよかったとほっと息をつくと、トーマが自分の方を向けるように葵の頬に触れる。
「俺にできなかったことって今までなかったんだ」
「(そうでしょうよ)」
「だから君のこと、俺は絶対に知るよ」
「……わたしが、知って欲しいと思ってなくてもですか」
「たとえそうだとしても、知ったとしても。俺が、あおいちゃんから離れるわけないじゃない」
自信満々の笑顔に、葵はどう言えばいいか言葉が見つからなかった。
「……いい? 俺が絶対に、葵ちゃんの花を開かせてあげる。枯らせなんてしないし、葵ちゃんに何と言われようとそばにいるって決めたんだ。だから、そばでちゃんと見てるから。そんな未来は絶対に断ち切ってみせるし、絶対に葵ちゃんを俺に惚れさせてみせるっ」
「俺にできないことはない!」と握り拳を作る彼の言葉は、照れくさかったのか最後は可愛く聞こえて。
「それは。……たのしみ、ですね?」
それがなんだかおかしくて思わずくすくすと笑っていると、何故かトーマが固まって動かなくなった。
「トーマさん? どうされ――」
「あおいちゃんっ」
そしてむぎゅーっと抱きつかれた。
「とーまさ、はなし。……っ」
「ごめん今だけ。あともうちょっとだけ。ほんと。すぐ終わるからっ」
ぎゅうぎゅうと力を入れられて骨が軋みそうだったけれど、小さく懇願するトーマがやっぱり可愛く見えて。
仕方がないからと気が済むまで、そうしてあげようと思ったその時。



