すべてはあの花のために④


「……今のわたしでは、トーマさんを幸せにすることはできません」


 トーマは何も言わなかった。
 ただ葵の言葉を、聞き漏らさないよう耳を傾けていた。



「今のわたしは、誰に好意を向けられてもそれに答えることはできません。トーマさんが仰った通り、わたしには残された時間が少ないから。わたしが嫌なんです。そんなわたしと一緒にいさせてしまうことが、苦しいんです。つらいんです」


 だから葵は、初めて会った時のように一方的に話した。


「トーマさんにそう言ってもらえたこと、本当に嬉しくてしょうがないんです。トーマさんは『わたし』のことを少しだけど知っていたのに。残りが少ないわたしを幸せにしたいと、そう思ってくれたことが」


 前に、言ったでしょう? 人一倍やさしいあなたには、幸せになって欲しいって。……だから。


「幸せに、なってくださいトーマさん。あなたが幸せなら、わたしも幸せです」


 葵はにっこり笑うだけ。


「……伝わり、ました?」

「うん。もう十分すぎるほど。今の葵ちゃんの気持ちが伝わってきたよ」


 それはよかったとほっと息をつくと、トーマが自分の方を向けるように葵の頬に触れる。


「俺にできなかったことって今までなかったんだ」

「(そうでしょうよ)」

「だから君のこと、俺は絶対に知るよ」

「……わたしが、知って欲しいと思ってなくてもですか」

「たとえそうだとしても、知ったとしても。俺が、あおいちゃんから離れるわけないじゃない」


 自信満々の笑顔に、葵はどう言えばいいか言葉が見つからなかった。


「……いい? 俺が絶対に、葵ちゃんの花を開かせてあげる。枯らせなんてしないし、葵ちゃんに何と言われようとそばにいるって決めたんだ。だから、そばでちゃんと見てるから。そんな未来は絶対に断ち切ってみせるし、絶対に葵ちゃんを俺に惚れさせてみせるっ」


「俺にできないことはない!」と握り拳を作る彼の言葉は、照れくさかったのか最後は可愛く聞こえて。


「それは。……たのしみ、ですね?」


 それがなんだかおかしくて思わずくすくすと笑っていると、何故かトーマが固まって動かなくなった。


「トーマさん? どうされ――」

「あおいちゃんっ」


 そしてむぎゅーっと抱きつかれた。


「とーまさ、はなし。……っ」

「ごめん今だけ。あともうちょっとだけ。ほんと。すぐ終わるからっ」


 ぎゅうぎゅうと力を入れられて骨が軋みそうだったけれど、小さく懇願するトーマがやっぱり可愛く見えて。

 仕方がないからと気が済むまで、そうしてあげようと思ったその時。