たまたまあいつの家に行ったら、母親もあいつもパニックだったよ。
慌ただしく兄貴の葬式をして、手続きの話をした。氷川としてはここで完全に切り離したかったところだろうが、兄貴を愛していた彼女は、断固として『氷川の名』を譲らなかった。
兄貴がしたことは、偏に氷川のためを思ってした行動だった。それ以前に、全ての責任を押しつけるような真似をした氷川にこそ責任があるのではないか。
改めて、もう一度よく考えて欲しい――彼女は、氷川を正そうと懸命に訴えた。
そりゃそうだろう。次期当主だったはずの嫁だぞ? 強くなけりゃ話になんねえ。
……でも、そんな彼女にも限界が来てしまった。
何かを言われたわけでもない。
ただずっと、視線が付き纏ってきていたみたいだ。腫れ物に触るような、軽蔑の視線が。
母親の場合は、いくら兄貴の文句を言われても、冷たい視線を向けられても折れなかった。
あいつが……オウがいたから、耐えることができたんだ。
けれど、それまで近づこうとすらしなかった奴らが、上辺だけの同情を引っ提げて近づいてきた。きっと『氷川』と関わりを持とうとしたんだろうが……彼女にも、とうとう限界が来てしまった。



