トーマが、葵の手からマグカップを取り去っていく。
「俺はあの時のこと、今でも後悔してる」
ぬくもりがなくなった葵の手は、彼の手にそっと包み込まれた。
「葵ちゃんがいなかったら、俺はあのまま紀紗と結婚してた。菊の気持ちも、チカの気持ちも、必死にしてきたことも全部踏みにじって。……俺は、ずっと血に縛られたまま生きていたと思う」
「……そう、思ってもらえて。すっごく嬉しいです」
「俺は、これからもっと大きくなる。成長してみせる。君を枯らせたりなんて、絶対にさせない」
ぎゅっと、握られている手に力が籠もる。
きっと、彼は初めから気づいていたんだろう。葵が、彼に会いに来た本当の理由を。
「俺のそばにいて。俺が成長するにはまだ、君が必要なんだ。俺もそばにいる。君が枯れないように。ずっと水という名のラブコールでもキスの雨でも降らせてあげるから」
「……あれ。途中までいい感じだったのに」
「っ、それぐらい俺は、葵ちゃんが好きだってことなんだ」
耳が少し赤いトーマに、思わず目を見張る。彼自身もそれに気づいているのだろうが、それを隠そうとはしていなかった。
「(にしても、本当に彼がここまで変わってくれたのは驚きだ)」
沈黙を返す葵に、トーマはそわそわしていたけれど。
「(こういう姿を見ると、わたしはちゃんと『願い』を叶えられてるんだって実感する……)」
何とも言いがたい気持ちになって思わず苦笑を浮かべていると、不安になったトーマから小さく声が掛かる。
「トーマさん。わたしの、今のわたしの返事を、聞いてもらえますか?」
「大体は予想できてるけど……うん。今の葵ちゃんの気持ち、教えて欲しい」
落ち着かなかったのか、彼は葵の手に先程のマグカップを戻してくれた。



