「……でも、あたしはあなたのお母さんだから」
「え……?」
「だから、いつでも相談しなさい。遠慮もなしよ? いいわね?」
「……! ~~っ。……はいっ」
抱き締めてくれるアヤメのやさしさに、母のぬくもりに喜びを噛み締めた。
「多分葵ちゃんは、友達と恋人の線引きができていないのね」
「……そういうことに、なるんだと思います」
「それは今も?」
「そう、ですね。よくはわからないままで……」
「それじゃあ教えてあげなきゃダメよね。母の務めを果たさないとっ」と、アヤメが葵のほっぺたを両手で包み込んだ。
「Hできるかどうかよ」
「そっ。それはしょうでしょうけどぉ……っ!」
至近距離で真顔はやめてください……。
「で、でもっ。結婚してても、別の人と……したりするじゃないですか」
「え? それは……本当に好きなんじゃなかったとか? それか、魔が差したとか!」
「――えっ」
葵の眉間に皺が寄ったので、アヤメは何か変なことを言っただろうかと不思議に思いながらも、そこを親指でぐりぐりした。
「あう!」
「可愛い顔が台無しよ? そもそも葵ちゃん、深く考えすぎなんじゃない?」
「え?」と、口を開けたまま葵は固まった。
「単純に考えればいいのよ」
「た、たとえば?」
アヤメは人差し指をピンと立てた。
「一番最終形態は、その人と死ねるかじゃない?」
「――――」
目を見開いて固まる葵に、アヤメは自分の考え方を順々に教えてくれた。
その人と生きていきたいか。
その人と一緒に年をとりたいか。
その人と子どもを作りたいか。
その人と結婚したいか。
その人と恋人になりたいか。
その人とキス、したいか。
その人と手を繋ぎたいか。
その人のそばにいたいか。
その人と話したいか。
その人と会いたいか。
その人の声が聞きたいか。
その人が見たいか。
その人の考えてることが知りたいか。
「……その人のことを考えるだけで胸の奥が熱くなったり、あったかかったり、苦しかったり、嬉しかったり。そんな感情とか行動になるものよ、好きって」
「どう? 誰か、当てはまる人はいる?」と、立てた人差し指で、アヤメは葵のほっぺたをツンツンと微笑ましそうに笑って突いていた。



