今度は自力で脱出した。母は手を貸してくれなかったので。でも目が血走っていた。
「それはそうと大丈夫だったの?!」
「え? た、ただそういうホテルに連れて行かれそうになってですね……」
「うん?!」
「やめてくれって言っても聞いてくれなかったので……」
「うん?!?!」
「思い切り頭を掴んで膝蹴りをお見舞いしたあと、鳩尾に拳を数発。最後はお空の彼方に飛ばしてあげました」
「……そ、そう……」
「それからはもう、その人は近寄ってきませんでしたね。それよか、めちゃくちゃ嫌われてしまったかも」
「そりゃそうでしょうねえ……」
頭を掴んで膝蹴りして……の動きをしながら苦笑を浮かべていたアヤメに、葵も同じように苦笑を浮かべる。
「わたしは、みんなの前以外……外出している時や学校の中では、清純派お嬢様と言われていたみたいなので。だから、すごく驚いたみたいです」
「あ、あたしは、会った時からそうは思わなかったけど……」
「はい。きっとそれは、わたしが“仮面”を外してるからだと」
アヤメは「仮面?」と、眉間に皺を寄せた。
「……わたしは、桜を無事に卒業しなければならないんです」
前置きして話すのは、葵が仮面を着けている本当の理由。
「わたしには、お友だちはいませんでした」
「…………」
「でもそれは、わたしにとって本当の自分を出せる人が、いなかったから」
「本当の、自分?」
ちゃぷんと、両手でお湯を掬う。
「矛盾してるんです。友だちが欲しいと言いながら、自分で壁を作っていましたから」
『お友だちは欲しいけど、こんなわたしを知って欲しくない』
『仲良くなりたいけど、わたしを知ったら幻滅するだろう』
「お友だちになるには、近づくことが必要だと思っているんですけど。……わたしには近づかないでって、そう思っているので」
「……それは、最低だから? 罰当たりだから?」
アヤメの言葉に一瞬目を見開いたあと、苦笑を浮かべた。「そうですね」と答えながら。
「……わたしは、お花を枯らせてしまいますから」
「? よくわかんないけど、そもそも何? どうして葵ちゃんが、最低で罰当たりなの? だってあなた、最高に面白いし可愛いし美人だし、胸だってこんなに大っきいし……」
「ひゃっ?!」
「え。……何これ。マシュマロ?」
「あ、あのっ。ちょ……!」
ピトッとアヤメの手が葵の胸へ。
面白がって葵の胸を揉みまくる。突く。摘まんでくる。
「いや~年って嫌ねー」
そんな感想をしみじみと言うアヤメに「て。手を。離してください……」と、顔を真っ赤にしながら懇願した葵だった。



