すべてはあの花のために④


「あやめさん」

「ん? なーに?」

「ご飯。とってもとっても。おいしかったです」

「葵ちゃん……」

「お手伝いも。……させてくれて。ありが――」

「もうこの子はっ」


 言いかけて、菖蒲に抱き締められた。


「……ははっ。……あったかいなあ」

「葵ちゃん……」

「なつめさんも。泊めてくださって。ありがとうございます。道場も。急だったのに。すみません」

「そんなことは全然いいんだよ」


 棗の大きな手が、ゆっくりと頭を撫でてくれた。


「……家族って。あったかい、ですね」


 二人は目尻を下げながら、ただ葵の言葉を聞いてくれた。


「こんなにあったかい。……家族も。愛してるって気持ちも。とっても。とっても素敵ですね」

「……ご家族とは、仲が良くない?」

「……わたし。は……」

「無理に聞かないよ? でも、誰かに聞いてもらうだけで気持ちが軽くなることもあるから」

「か。るく……」

「葵ちゃんが思ってること。ゆっくりでいいから聞かせて?」


 やさしい二人に、葵はふるふると緩く首を振るだけ。


「みんなに会うまで。幸せなことがどういうことなのか。ほんの些細なことしか知らなくて。でも今は。信じられないくらい楽しいです。嬉しいんです。……こんな最低なわたしが。……っ、こんな感情を持つなんて。ほんと。罰当たりもいいとこですよ……っ」

「……最低?」

「葵ちゃん、罰当たりって……?」


 けれど葵は、それには何も答えず、涙を流しながら笑みを返すだけ。


「みんなに。楽しいこといっぱい教えてもらいました。みんなと会えたおかげで。いろんな人たちにも出会えました。もちろんナツメさんにも。アヤメさんにも。これ以上ない幸せを今。感じられて。本当に幸せですっ」


 そう言うと、二人はゆっくりと顔を見合わせる。


「……ここはあなたの家よ」

「そうだね。あおいちゃんは俺たちの家族同然だね」

「え? で。でもわたし……」

「杜真と結婚して、嫁ぎに来てくれると嬉しいんだけどね~」

「でもその前に、しっかり家族アピールしとかないとよね!」