「あやめさん」
「ん? なーに?」
「ご飯。とってもとっても。おいしかったです」
「葵ちゃん……」
「お手伝いも。……させてくれて。ありが――」
「もうこの子はっ」
言いかけて、菖蒲に抱き締められた。
「……ははっ。……あったかいなあ」
「葵ちゃん……」
「なつめさんも。泊めてくださって。ありがとうございます。道場も。急だったのに。すみません」
「そんなことは全然いいんだよ」
棗の大きな手が、ゆっくりと頭を撫でてくれた。
「……家族って。あったかい、ですね」
二人は目尻を下げながら、ただ葵の言葉を聞いてくれた。
「こんなにあったかい。……家族も。愛してるって気持ちも。とっても。とっても素敵ですね」
「……ご家族とは、仲が良くない?」
「……わたし。は……」
「無理に聞かないよ? でも、誰かに聞いてもらうだけで気持ちが軽くなることもあるから」
「か。るく……」
「葵ちゃんが思ってること。ゆっくりでいいから聞かせて?」
やさしい二人に、葵はふるふると緩く首を振るだけ。
「みんなに会うまで。幸せなことがどういうことなのか。ほんの些細なことしか知らなくて。でも今は。信じられないくらい楽しいです。嬉しいんです。……こんな最低なわたしが。……っ、こんな感情を持つなんて。ほんと。罰当たりもいいとこですよ……っ」
「……最低?」
「葵ちゃん、罰当たりって……?」
けれど葵は、それには何も答えず、涙を流しながら笑みを返すだけ。
「みんなに。楽しいこといっぱい教えてもらいました。みんなと会えたおかげで。いろんな人たちにも出会えました。もちろんナツメさんにも。アヤメさんにも。これ以上ない幸せを今。感じられて。本当に幸せですっ」
そう言うと、二人はゆっくりと顔を見合わせる。
「……ここはあなたの家よ」
「そうだね。あおいちゃんは俺たちの家族同然だね」
「え? で。でもわたし……」
「杜真と結婚して、嫁ぎに来てくれると嬉しいんだけどね~」
「でもその前に、しっかり家族アピールしとかないとよね!」



