バスの中で、トーマから話は聞いていた。
『両親? ああ、もう超元気。人が必死に勉強してるのに俺の部屋でテレビとか見出すし、ゲームし出すし、部屋漁るし、毎日戦争。気が散るって言っても、『そうは言っても試験中はいっぱい人がいるんだから、集中力を高めるためだと思って』とか言い訳連ねるし。無視したら無視したで、俺の勉強を中断させてまで『構って?!』とかごねてくるし』
息子が大好きすぎでしょうがない二人のことを。
二人は無言になったけど、そのあと苦笑いをしながら座るように促された。
「進路のこと、ですよね」
「杜真から何か聞いたの?」
「いえ。A判定ってことしか」
「実は杜真は、今まで進路にさほど興味がなくて。家から通えるところがいいとか、それぐらいしか言ってなかったんだよ」
それはそれで意外だなと思っていたら、隣に座っていたアヤメの手が、そっと膝の上に置いていた葵の手に伸びてくる。
「杜真はね、葵ちゃんに会ってから変わったのよ」
「それは、わたしも時々思います」
たまに暴走し始めますもんね……と思っていると、アヤメは「そういうことじゃないわ」と小さく笑った。
「やりたいことをね、見つけたみたいなんだ」
「それをするためには、ここにいてはダメだって言うのよあの子」
俯きそうになる葵の顔を、アヤメはやさしく包み込んだ。
「あたしたちは、杜真がしたいことなら全力で応援したい。たとえそれが、どんなことであってもね?」
「杜真のしたいことがここではできないのなら、俺たちは応援してやるだけだよ」
二人は、決して寂しそうな顔を見せなかった。ただ、息子が誇らしいと笑っていた。
「……そっか。そうですよね。それが親子ですもんね」
「いいえ。そうではないわ」
「え……?」
「大好きだから。……愛しているからよ」
それが当たり前のことだと。二人の笑顔が物語っていた。
「……そっか。愛してるって、すごいなあ」
「俺たちは杜真ももちろん、葵ちゃんのことも応援しているよ。流石に愛してるって言ったら不味いから、大好きだからにしとこうか」
「それって……」
「葵ちゃんがしようとしてること、あたしたちも一緒に支えてあげるわ。だから、いくらでも我が儘でも何でも言って頂戴ね」
二人の温かい言葉に、鼻がつんと痛くなる。
「お、おかしいな。わたし。とーまさんとたくさんたくさん話してくださいねって。それをお二人に言いたくて。お時間を戴いたはずなのに……」
「大丈夫。ちゃんと伝わってるわ」
「そうそう。今度からもっと俺らと遊んでもらおう」
「ふふ。ぜひ。そうしてくださいっ」
ぽろぽろと、涙をこぼしながら泣き笑い。



