そのあと美味しいご飯を鱈腹食べた葵は、すごく心が温かくなったのを感じていた。久方振りの母の味でお腹がいっぱいだからかもしれないと、思わず顔を綻ばせる。
「この食器はどちらへ?」
「白い食器棚に入れておいてくれるかしら。同じ形があると思うわ」
そのあとご馳走になった葵はトーマ母、アヤメと一緒に片付け。「はーい」と返事をして同じ皿を探す。
「別に手伝わなくてもいいのよ? 遠くまで来て疲れたでしょう? ゆっくりして?」
「いえいえ! お世話になる分はせめて! それにお手伝いって久し振りで。……今実はすごく楽しんでます」
にこにこしながら片付いたテーブルを拭いていると、一番風呂からトーマ父、ナツメがダイニングに戻ってくる。そういえば道場のことをすっかり失念していたと、慌てて借りられないか頼む。
するとトーマの両親は、不思議そうに目をパチパチと瞬きした。
「もちろんそれは構わないけど、そういえば葵ちゃん、何しにうちまで?」
「ちょっと、自分探しの旅と言いますか。……それはそうと、逆になんだと?」
「? ……同棲報告?」
「じゃなかったら結婚報告?」
「だから一足飛び過ぎなんですって」
ということは、部屋紹介の時のは本気で言ってたのか。あの落ち込みようも、あながち嘘でも冗談でもないと。いや、それはそれで困るんですけど。
「そういうことなので、実は明日の朝にはここを発つつもりなんです。……我が儘を言ってしまって申し訳ありません」
「でも、何かあったからここまで来たんでしょう?」
「え?」
視線を上げると、二人が穏やかに微笑んでいた。
「大丈夫。俺たちは葵ちゃんの邪魔はしないから。思う存分自分探ししておいで」
「……っ、はいっ!」
お礼を言った葵は、続けてトーマの居場所を尋ねる。すると何故か二人がピシッと固まった。
「と、杜真には、今別の用事を頼んでるんダケド」
「と、杜真に何か、用事カナっ?」
いきなり挙動不審になったのかは不明だが。
「いえ。トーマさんがいないなら、今のうちにお二人とお話しができればと思って」
「まさか、やっぱり杜真のお嫁さんにして欲しいって?」
「違います」
「じゃあ杜真をお嫁さんに欲しいとか?」
「も、もっと違います」
「うん、こりゃ脈なしだ」「一方通行ほどの恋をいじるのも楽しいわよね」といじり倒している二人に、クスリと笑う。
「やっぱり、寂しいですか?」



