「ねえ」
カチッとスイッチを切り替えようとしたところで、葵は後ろからツバサに声をかけられる。先程は視線も合わせないままステージに行ったから、てっきり話すのも嫌になったのかと思ったけれど。
葵は一段階段を上がったところで振り返る――その時会場から悲鳴が上がったので、ああ彼が出てきたんだなと思った。そんなことを考えながらツバサと視線を合わそうとするが、それでもまだ彼の目線は、葵よりも高い位置にある。
「なんでその衣装なのよ」
「え? そんなこと?」
まさか衣装についてだったとは。文化祭は衣装について聞かれることが多いな。
「いいから答えなさいよ」
「え? だって、わたし取りでしょう? だからここはやっぱりこれだと思って。会場も期待しているだろうと」
葵がそう言うと、ツバサは大きなため息をついた。
「アンタの将来が心配」
「わたしはツバサくんの美しさに果てがあるのかが心配」
結構真面目に返したんだけど、ツバサには呆れられた。
「知らないの。アンタ、今それ着たら婚期が遅れるのよ」
「なんだあ。そんなことか」
身構えていた葵は、気が抜けて思わずハハッと笑った。
「……何よ」
「ツバサくんも、ジンクス信じてるんだなと思って」
一段、また一段と、ドレスの裾を指で摘まみながら葵は階段を上がっていく。
「わたしには関係ないことだよ~ん」
「どういうことよ」
そうして一番上まで辿り着いた葵は上半身だけ振り向いて答えた。
「だってわたし、結婚するつもりなんてないからさ?」
笑顔でただそう言い残して、葵はステージへと歩いて行った。
「……どうして、そんなこと言うんだよ……ッ」
ツバサの顔が苦しそうになっているとも知らずに。



