すべてはあの花のために③


「ねえ」


 カチッとスイッチを切り替えようとしたところで、葵は後ろからツバサに声をかけられる。先程は視線も合わせないままステージに行ったから、てっきり話すのも嫌になったのかと思ったけれど。

 葵は一段階段を上がったところで振り返る――その時会場から悲鳴が上がったので、ああ彼が出てきたんだなと思った。そんなことを考えながらツバサと視線を合わそうとするが、それでもまだ彼の目線は、葵よりも高い位置にある。


「なんでその衣装なのよ」

「え? そんなこと?」


 まさか衣装についてだったとは。文化祭は衣装について聞かれることが多いな。


「いいから答えなさいよ」

「え? だって、わたし取り(、、)でしょう? だからここはやっぱりこれだと思って。会場も期待しているだろうと」


 葵がそう言うと、ツバサは大きなため息をついた。


「アンタの将来が心配」

「わたしはツバサくんの美しさに果てがあるのかが心配」


 結構真面目に返したんだけど、ツバサには呆れられた。


「知らないの。アンタ、今それ着たら婚期が遅れるのよ」

「なんだあ。そんなことか」


 身構えていた葵は、気が抜けて思わずハハッと笑った。


「……何よ」

「ツバサくんも、ジンクス信じてるんだなと思って」


 一段、また一段と、ドレスの裾を指で摘まみながら葵は階段を上がっていく。


「わたしには関係ないことだよ~ん」

「どういうことよ」


 そうして一番上まで辿り着いた葵は上半身だけ振り向いて答えた。


「だってわたし、結婚するつもりなんてないからさ?」


 笑顔でただそう言い残して、葵はステージへと歩いて行った。


「……どうして、そんなこと言うんだよ……ッ」


 ツバサの顔が苦しそうになっているとも知らずに。