すべてはあの花のために③


『続きまして、エントリーNo.14の方、どうぞ~』

「はあ。行ってくる」

「行ってらっしゃいヒナタくん! キサちゃんが可愛いからって、惚れちゃダメだぞ?」


 さっき、途轍もなく可愛く変身していたキサを思い出す。しかしヒナタは、急に立ち止まってしまった。
 ……おーい、どうしたの。出番なんだぞ?


「じゃああんただったらいいわけ?」

「いやいや、そういう意味で言ったわけじゃないから! 彼氏がいるからねって話だよ!」


 何をいきなり言い出すのかと思ったら。葵がそう言うと、「ま、お断りですけど」とまたため息をつき、彼はそのままステージに上がっていった。


「なんだいなんだい! そんなの言われなくてもわかってるし! わざわざ言わなくてもいいことだし! 嫌みったらしく言いやがってえーっ!」

「いや、多分それは違う」

「そうね」

「ん? どういうこと??」


 二人はそれ以上の説明が嫌なのか、それからは何も言わなかった。
 そうこうしているうちに、二人がランウェイを歩いて行っていた。


『女性の方はビッグカラーがショール風のウールタッチコートを着ていますねー。可愛らしい顔立ちにも関わらず、大人っぽく感じます! 下はショートパンツかワンピースを着ているのでしょうか。彼女も前を閉めていてはっきりとはわかりませんが、丈の長いコートを着て、スラッとした足がとてもセクシーです! 足下は膝までのブーツと合わせられていて、上品で尚且つキュートに仕上げられています!』


 そんな褒めなさんな。あなた課題増やされますよ~。


『続いて男性の方ですね! 彼の方はPコート風のグレーのジャケットを羽織っています! ブラックのパンツにワイン色のVネックニットを着て、首元をスッキリ見せています! その首元にあるネックレスが印象強いですね!』


 一見地味目に見える彼も、髪色がオレンジなので服を地味めに抑えてきた……というところか。満面の笑みを浮かべながらランウェイを歩く彼女の横には、やる気がなさそうに彼女に腕を引かれて歩く彼氏。
 中心まで行くと、彼女は少し怒りながら彼氏の頬を両手でパチンと包み、彼はいきなりのことで驚く。その後彼女がふっと笑いながら何かを話すと、彼は一瞬目を見開いて腕を顔の前に持ってくる。その頬はどこか赤くなっているようで……。

 すると彼氏は彼女の手をぐいっと引っ張り手を繋ぎ、二人一緒に満面の笑顔でステージの方へ戻ってくる。


『何か、あそこの空間だけ、本当のカップルのような、そんな雰囲気が流れていました! 羨ましい限りですハイ……ッ!』


 やっぱりあなたは彼女狙いなんですね? 通りで説明が長いと思ったよ。でも、そんなこと言ってたら後が怖いよ? 校内にいる間は気をつけなされ。

 そうこうしているうちに、ヒナタが戻ってきた。


「どうしたのよ。えらく楽しそうだったじゃない」

「珍しいな日向」

「失礼な。オレだって笑えるし」


 ヒナタがぷいっとそっぽを向いてしまった。
 でも、本当に珍しいことばかりだ。なんだか得した気分。