桜の体育館はかなり大きく設備も整っているため、いろんな大会やダンスパーティーなどイベントホールとしても使用されている。
控え室前の廊下で、今まで無言で引っ張っていたチカゼが急に立ち止まり、彼の背中に葵は思い切り顔面をぶつけた。
「いて。……チカくん?」
彼は何も言わずこちらを向かず。ただ繋いでいる手に少しだけ力を込めるだけ。
「……早く行かないと、オウリくんとアカネくん二人で大変だよ?」
「わかってる」
チカゼの雰囲気が少し寂しそうで、葵は繋がっている手をそっと握り返した。
「お前、なんでミスコン出ようと思ったんだ」
「ん? 思い出作りたかったからだよ?」
昨日も言っただろうに。
「じゃあ、なんで急に言ったんだよ」
「だから、どうしようか迷ってたけど、やっぱりしたいなと思ってー」
そう言うと、チカゼはやっと目線を合わせてくれる。
「昨日オレが生徒会室出て行ってから、何かあったよな」
「なかなかゴールしてくる人がいなかったから、おかしいなと思って。ちゃんとみんなが仕事してるのか、確認しに行っただけだよ?」
なるべく動揺をせず、彼にゆっくりとそう伝えてあげる。
「なんで無線使わなかったんだよ」
「チカくんも知ってるでしょう。わたしは先に体が動いちゃうんだよ」
葵がそう言うと、彼は何かを窺うような視線を寄越した。
「じゃあなんで湯飲み割ったんだよ」
「ちょっと落としちゃってね~」
「それ、ちゃんと片付けたのか」
ああ、どっちだろう。どう答えればいいだろう。
ツバサと帰ってきた時は綺麗になくなっていて、残っていた飲み物も綺麗に拭き取られていた。
「……片付けたよ?」
――さあ、どっちだ。



