すべてはあの花のために③


 桜の体育館はかなり大きく設備も整っているため、いろんな大会やダンスパーティーなどイベントホールとしても使用されている。
 控え室前の廊下で、今まで無言で引っ張っていたチカゼが急に立ち止まり、彼の背中に葵は思い切り顔面をぶつけた。


「いて。……チカくん?」


 彼は何も言わずこちらを向かず。ただ繋いでいる手に少しだけ力を込めるだけ。


「……早く行かないと、オウリくんとアカネくん二人で大変だよ?」

「わかってる」


 チカゼの雰囲気が少し寂しそうで、葵は繋がっている手をそっと握り返した。


「お前、なんでミスコン出ようと思ったんだ」

「ん? 思い出作りたかったからだよ?」


 昨日も言っただろうに。


「じゃあ、なんで急に言ったんだよ」

「だから、どうしようか迷ってたけど、やっぱりしたいなと思ってー」


 そう言うと、チカゼはやっと目線を合わせてくれる。


「昨日オレが生徒会室出て行ってから、何かあったよな」

「なかなかゴールしてくる人がいなかったから、おかしいなと思って。ちゃんとみんなが仕事してるのか、確認しに行っただけだよ?」


 なるべく動揺をせず、彼にゆっくりとそう伝えてあげる。


「なんで無線使わなかったんだよ」

「チカくんも知ってるでしょう。わたしは先に体が動いちゃうんだよ」


 葵がそう言うと、彼は何かを窺うような視線を寄越した。


「じゃあなんで湯飲み割ったんだよ」

「ちょっと落としちゃってね~」

「それ、ちゃんと片付けたのか」


 ああ、どっちだろう。どう答えればいいだろう。
 ツバサと帰ってきた時は綺麗になくなっていて、残っていた飲み物も綺麗に拭き取られていた。


「……片付けたよ?」


 ――さあ、どっちだ。