すべてはあの花のために③


 門の前では右と左に分かれて、来た人にパンフレットを配っている。葵の隣にはアカネがいてくれていた。
 桜の文化祭はクオリティーが高いと評判で、地域の人も他校の生徒もたくさん入ってくる。しかし始めの一時間で結構入ったようで、入場人数は落ち着いていた。


「あおいチャン、何ともない?」


 アカネも葵の心配をしてくれた。


「うん。今のところは何ともないよ。もしかして昨日、ツバサくんから何か聞いたかな?」


 敢えて目線を正面へ向けたまま尋ねてみたけれど、視界の端でアカネがビクッとなったのがばっちり見えて、思わず笑う。


「アカネくんって、嘘つけないよね」

「気づくあおいチャンもすごいと思うんだけど」


 話を聞くに、講堂の奈落に閉じ込められていたことと、そこまで葵が助けに来てくれたことしか聞いていないようだ。


「だから今日は何もないんじゃないかなって。つい羽目を外しちゃった」

「あおいチャン、楽し?」

「うんっ。これ以上ないほど楽しんでるよ! 今日一日でどれだけ思い出できるかな~?」


 それから、みんなして注意深く意識して入ってくる一般客を見ていたが、嫌な視線を放ってくるような人は入ってこなかった。


「(なら、もう校内の中に……)」


 時間が12時になったのを見計らい、葵たちは校内へと戻ることに。葵はミスコンのため体育館へ、他の三人は講堂へ行くのだが。


「ちょっとこいつ体育館まで送ってくる。少しの間頼む」


 チカゼは返事も聞かず、さっさと葵の手を取ってズンズンと進んで行く。振り返った二人は、最初こそ目を点にしていたれけど、すぐににっこり笑って手を振ってくれた。


「(頑張ってくるからね~。わたしの癒やしたちぃ~……)」


 葵も泣いてるのか笑ってるのか、変な顔をしながら手を振っておいた。


「(へ、変とは何だ!)」

((そのままノ意味))

「(最近突っ込みも雑だから!)」

((いいから、さっさとイケ))

「(ええー何でそんなに機嫌悪いのか。わかったよう……)」


 葵はチカゼに連れられて、体育館へと向かっていった。