葵がそう言うと、カナデは顔を隠していた手を葵の手にそっと重ねる。
「え。カナデ、くん?」
カナデは葵を真剣な顔で見つめる。
「ねえ、どうして嬉しいの」
「え?」
少しずつ。カナデの手に力が籠もっていく。
「ねえ。なんでアオイちゃんは嬉しいの」
「え? なんで……って。なんでカナデくん、怒ってるの?」
「今は俺の質問に答えてよ」
カナデの手に力が入りすぎて痛い。ギリギリと、音を立てているようだ。
「カナデくん痛い」
「答えたら放すよ」
一体どうしたというんだ、彼は。何をそんなに怒ることがあったのか。
「ねえアオイちゃん。ヒナくんと話せるようになって、嬉しい?」
「え? まあ、前から話してたけど」
「でももう大丈夫なんでしょ。距離感わかったんでしょ。よかったね」
「え? 本当にどうしたの?」
どうして、口調がキツいの。
「これでヒナくんとの距離も一気に近づけるもんねー。ほんと、よかったよかった」
投げやりな言い方に、流石の葵もイライラしてくる。
「カナデくん」
「何」
「なんで嬉しかったのかって聞いたね」
「うん。だから、ヒナちゃんとの距離が縮まって嬉しいんでしょ」
葵とカナデはお互いを見つめ合っているが、そんな甘い雰囲気なんかはない。寧ろ火花が散っている気さえする。
「それは、本当によかったなと思ってる」
「……やっぱり、アオイちゃんは……」
だから何だというんだ、本当に。怒ったと思ったら、急に悲しそうな顔になるし。
「カナデくん、最後まで聞いて?」
「聞きたく、ない」
「わたしは、君が近づけないのにも関わらずわたしのことを考えて行動してくれたことが嬉しいんだよ?」
「え……?」



