「それはそうと! わたしはカナデくんにお礼を言おうと思ったのだよ!」
「え? お礼? 俺、なんかしたっけ?」
本当に心当たりがないといった様子で、首を傾げるカナデ。
「カナデくんは……」
「へ?」
「ううん。なんでもない」
「え? うん?」
こんなこと、彼にはお礼を言ってもらうようなことじゃないのかもしれない。そう思えることがすごいってことに、彼は気づいてるんだろうか。
少なくとも葵は救われた。彼がヒナタに、話してくれたことで。
葵は握られたままになっている自分の手に、もう片方の手を乗せて、彼の手を包みながら話す。
「え? アオイちゃん?」
「カナデくん。本当に、ありがとう」
「うん? だから何が?」
「ヒナタくんに、話してくれたんでしょ?」
葵はそう言うと、「ヒナくんめ……」って言いながら、カナデは片手で自分の顔を隠した。
「ヒナタくんね、謝ってくれたの。わたしも悪かったのに。だからね、もう普通に話せるよ? 距離感がわからないなんてことはないよ。そうしてくれて、ありがとう。カナデくん」
にっこり笑ってそう言うと、カナデは顔を隠した手の隙間から葵をチラッと見てきた。その顔は少し照れてるみたいだ。
「……そ。それなら、よかった」
「うん! わたしも嬉しい!」



