すべてはあの花のために③


「それはそうと! わたしはカナデくんにお礼を言おうと思ったのだよ!」

「え? お礼? 俺、なんかしたっけ?」


 本当に心当たりがないといった様子で、首を傾げるカナデ。


「カナデくんは……」

「へ?」

「ううん。なんでもない」

「え? うん?」


 こんなこと、彼にはお礼を言ってもらうようなことじゃないのかもしれない。そう思えることがすごいってことに、彼は気づいてるんだろうか。
 少なくとも葵は救われた。彼がヒナタに、話してくれたことで。
 葵は握られたままになっている自分の手に、もう片方の手を乗せて、彼の手を包みながら話す。


「え? アオイちゃん?」

「カナデくん。本当に、ありがとう」

「うん? だから何が?」

「ヒナタくんに、話してくれたんでしょ?」


 葵はそう言うと、「ヒナくんめ……」って言いながら、カナデは片手で自分の顔を隠した。


「ヒナタくんね、謝ってくれたの。わたしも悪かったのに。だからね、もう普通に話せるよ? 距離感がわからないなんてことはないよ。そうしてくれて、ありがとう。カナデくん」


 にっこり笑ってそう言うと、カナデは顔を隠した手の隙間から葵をチラッと見てきた。その顔は少し照れてるみたいだ。


「……そ。それなら、よかった」

「うん! わたしも嬉しい!」