すべてはあの花のために③


「(俺も、アオイちゃんと旅行行きたいっ!)」


 そんなことを考えながら、ベッドの上の枕に拳を打ち込んでいるカナデ。


「いやいやカナデくん、枕に穴が空いちゃうよ」


 ちょうどその時、葵が仮眠室に入ってきた。


「え⁉︎ アオイちゃん?!」

「何をそんなに悔しがってるんだー?」


 葵はカナデが座っているベッドに腰をかける。


「……だって、俺もアオイちゃんと旅行行きたいんだもん」


 そう言いながら、しゅんとなるカナデ。
 ――なんということだろう! 何故か生えた、彼の犬の耳と尻尾が元気がなくなってるように見えるではないか!


「(大きなワンコがしょんぼりしている)」


 ついつい撫でたくなった葵は、彼の俯いた頭をやわらかく撫でてあげた。初めは驚いたカナデも、気持ちいいのか目元と口元が嬉しそう。


「カナデくん? わたしたちはやっぱりカナデくんとも一緒に旅行行きたいからさ、まだ使わないことにしたんだー」

「え?」


 葵がそう言うと、カナデは葵の撫でていた手を取って聞き返してくる。


「どういうこと」

「ん? またいつか、一緒に行けたらいいなと思って。そんな願望が入ってる!」

「一生来ないよ、そんなの」

「そっか。まあ、その時はその時だ」


 葵がにかっと笑ってそう言うと、カナデは苦笑いをしながら「ありがと」と零した。