すべてはあの花のために③


 葵はそう言って、目の前のツバサをぽかぽかと殴った。


「っ。ひっく。よ、よかったっ、よぉ……」


 力なく殴ってくる葵の手を、ツバサはそっと優しく包んだ。


「……つばさ。くん?」

「ねえ。アンタは何でここにいるの。アタシが何でここにいるのか、アンタ知ってるんでしょ」


 ツバサは葵の目を真っ直ぐ見つめている。


「……あるひとが。ね? 多分、そこなのに。ポイントに、誰も立ってなかったですよーって。教えてくれたの」

「うん。それで?」

「そこがキサちゃんのポイントだから。シンデレラを見かけなかったかって近くの人に聞いたら。音楽室の方に行ってたのを。見たって。音楽室に行ったら、キサちゃん。違う人が、立ってるはずだよって。教えて、くれて」

「うん。それはアタシがアキに頼まれたから、代わりに行ったわ」

「だから。たぶんつばさくんだろうって。おもって。……さがし、たんだっ」

「……そう。よくアタシってわかったわね」

「はじめの、メンバーはちがうって、おもって。ちかくんが、さっきおうりくんとひなたくんには、あったって。はなし、てたから」

「(アキには聞かなかった、と)そう。どうして、ここだってわかったの」

「……………………女、の勘」

「アンタ嘘つくの下手ね」

「あ。ありが。とう」

「いや、褒めてねえ。……ま、これは言えないこと、なんでしょうね。恐らく」


 ツバサがそう言うと、葵はきょとんとなる。


「はあ。お前さ、あの時のこと、ちゃんと覚えてる?」


 ツバサはそっと、葵の頬を包む。


「俺は、お前がちゃんと言えるまで待つから、今は無理には聞かないよ」

「つばさ。くん」

「このことは? みんなには言わない方がいい?」


 葵はただ、こくんと頷いた。


「(まあアカネもアキも、なんか隠してるみたいだしな)みんなに心配かけるしな。じゃあ言わないでおくよ。それでいい?」

「……っ、うん。ありが、とう。ご、めんな。さい……」