葵はそう言って、目の前のツバサをぽかぽかと殴った。
「っ。ひっく。よ、よかったっ、よぉ……」
力なく殴ってくる葵の手を、ツバサはそっと優しく包んだ。
「……つばさ。くん?」
「ねえ。アンタは何でここにいるの。アタシが何でここにいるのか、アンタ知ってるんでしょ」
ツバサは葵の目を真っ直ぐ見つめている。
「……あるひとが。ね? 多分、そこなのに。ポイントに、誰も立ってなかったですよーって。教えてくれたの」
「うん。それで?」
「そこがキサちゃんのポイントだから。シンデレラを見かけなかったかって近くの人に聞いたら。音楽室の方に行ってたのを。見たって。音楽室に行ったら、キサちゃん。違う人が、立ってるはずだよって。教えて、くれて」
「うん。それはアタシがアキに頼まれたから、代わりに行ったわ」
「だから。たぶんつばさくんだろうって。おもって。……さがし、たんだっ」
「……そう。よくアタシってわかったわね」
「はじめの、メンバーはちがうって、おもって。ちかくんが、さっきおうりくんとひなたくんには、あったって。はなし、てたから」
「(アキには聞かなかった、と)そう。どうして、ここだってわかったの」
「……………………女、の勘」
「アンタ嘘つくの下手ね」
「あ。ありが。とう」
「いや、褒めてねえ。……ま、これは言えないこと、なんでしょうね。恐らく」
ツバサがそう言うと、葵はきょとんとなる。
「はあ。お前さ、あの時のこと、ちゃんと覚えてる?」
ツバサはそっと、葵の頬を包む。
「俺は、お前がちゃんと言えるまで待つから、今は無理には聞かないよ」
「つばさ。くん」
「このことは? みんなには言わない方がいい?」
葵はただ、こくんと頷いた。
「(まあアカネもアキも、なんか隠してるみたいだしな)みんなに心配かけるしな。じゃあ言わないでおくよ。それでいい?」
「……っ、うん。ありが、とう。ご、めんな。さい……」



