悔しさに下唇を噛み締めながら、ある一カ所を目指して葵は走る。
葵が辿り着いたのは、文化祭が始まった場所。
「確か、こっちにあるはず……」
講堂の壇上にある、奈落の入り口を探す。
「……っ、お願い……ッ」
葵は願いを込めて、そこへと通じる扉を開く。
そこには――――雪のように白いドレスを着ているツバサが、倒れていた。
「ツバサくん! ……っ。つばさくんっ!」
葵は彼の体を揺すりながら、大きな声で呼びかける。
しかし、彼からの反応はない。けれどよく聞いてみると、彼から小さな寝息の音が。熱もなければ脈も正常。どうやら爆睡中のようで、揺すっても全然起きなかった。
「……麻酔でも打たれた? でなかったらこんな場所で寝ないでよ。連絡も……ちゃんと。起きて。出てよ。ばかぁ」
彼の無事な姿を見て、葵は安心したせいか。涙が、ぽろぽろと流れ出して、止まらなかった。
「……ん?」
葵が啜り泣いていると、どうやらツバサが起きたようだ。
「つばさくん。……よく。お眠り。で」
葵がそう言うと、ツバサは現状を全然把握してないのか、目は点だし、口は開きっぱだ。
「どう、して。こんな、ところに。いるん。ですか」
「え? どうして……って、え? なんで?」
目を覚ました目の前に泣いている葵がいて、ツバサは慌てて抱き締めながら背中をさする。
「え? どうしてアタシ、こんなところにいるの。っていうかここどこよ」
「ここは。講堂のっ、奈落。です」
「いや、だからなんでそんなところにいるのよアタシ。そしてアンタもなんでいるの」
「仕事してないから、捜したんじゃないかぁー……」



