すべてはあの花のために③


 悔しさに下唇を噛み締めながら、ある一カ所を目指して葵は走る。
 葵が辿り着いたのは、文化祭が始まった場所。


「確か、こっちにあるはず……」


 講堂の壇上にある、奈落(、、)の入り口を探す。


「……っ、お願い……ッ」


 葵は願いを込めて、そこへと通じる扉を開く。
 そこには――――雪のように白いドレスを着ているツバサが、倒れていた。


「ツバサくん! ……っ。つばさくんっ!」


 葵は彼の体を揺すりながら、大きな声で呼びかける。
 しかし、彼からの反応はない。けれどよく聞いてみると、彼から小さな寝息の音が。熱もなければ脈も正常。どうやら爆睡中のようで、揺すっても全然起きなかった。


「……麻酔でも打たれた? でなかったらこんな場所で寝ないでよ。連絡も……ちゃんと。起きて。出てよ。ばかぁ」


 彼の無事な姿を見て、葵は安心したせいか。涙が、ぽろぽろと流れ出して、止まらなかった。


「……ん?」


 葵が啜り泣いていると、どうやらツバサが起きたようだ。


「つばさくん。……よく。お眠り。で」


 葵がそう言うと、ツバサは現状を全然把握してないのか、目は点だし、口は開きっぱだ。


「どう、して。こんな、ところに。いるん。ですか」

「え? どうして……って、え? なんで?」


 目を覚ました目の前に泣いている葵がいて、ツバサは慌てて抱き締めながら背中をさする。


「え? どうしてアタシ、こんなところにいるの。っていうかここどこよ」

「ここは。講堂のっ、奈落。です」

「いや、だからなんでそんなところにいるのよアタシ。そしてアンタもなんでいるの」

「仕事してないから、捜したんじゃないかぁー……」