すべてはあの花のために③


「やーっと。一人になってくれましたねえ~」

「――!」


 体育祭以来会っていなかった、あの謎の男が扉から入ってきた。驚いて食器を落とし、湯飲みだけ割ってしまう。


「あらあら~? そんなにボクのこと、待っててくれたんですかあ?」

「いえ。全然待っていないので、お引き取りください」


 そう言って葵は割れた湯飲みを片付けようとする。すると。


「そんなこと、言っていいんですかねえ?」


 ニヤニヤした顔で、そう言ってくる。


「(視線はこいつか? ……本当に?)」


 不確かなまま、「何がですか」と問う。


「今あなた、何してるんでしたっけえ」

「? わたしは今、生徒会の仕事を」

「そうそう! そうですよねえ。……それで? その仕事ははかどってますかあ~?」

「え。……何、言って……」

「だって。……お客さん、全然来てないんじゃないですう?」

「――?!」


 確かに、オウリといた時に、一組来ただけ。今は……15時を過ぎている。そこまで時間がかかる問題ではないはずだ。


「な、……にを。したんですか」

「ええ~? 別に、大したことはしてないですよお」

「何をしたんですか!」

「そんなに怒らなくてもいいのにい」

「教えてください」

「しょうがないですねえ~。……じゃあその代わり、明日のミスコンに出てください」


 いきなり変なことを言い出したので、どうしたのかと思ったら。


「コンテストでは必ず、優勝してくださいね?」

「……どういう、ことですか」

「あーいえ、まあ出てくださるだけでいいとしましょう。優勝はできれば。そして必ず出ること。それが条件です」

「……わかりました」


 そう言うと、口の端をこれでもかと上げ、猫のように笑った。


「そうですかあ。それはよかったですう。では、何をしたか、ですね? 答えは――」


 ――生徒会の誰かに、ちょっと消えてもらいましたあ。