「やーっと。一人になってくれましたねえ~」
「――!」
体育祭以来会っていなかった、あの謎の男が扉から入ってきた。驚いて食器を落とし、湯飲みだけ割ってしまう。
「あらあら~? そんなにボクのこと、待っててくれたんですかあ?」
「いえ。全然待っていないので、お引き取りください」
そう言って葵は割れた湯飲みを片付けようとする。すると。
「そんなこと、言っていいんですかねえ?」
ニヤニヤした顔で、そう言ってくる。
「(視線はこいつか? ……本当に?)」
不確かなまま、「何がですか」と問う。
「今あなた、何してるんでしたっけえ」
「? わたしは今、生徒会の仕事を」
「そうそう! そうですよねえ。……それで? その仕事ははかどってますかあ~?」
「え。……何、言って……」
「だって。……お客さん、全然来てないんじゃないですう?」
「――?!」
確かに、オウリといた時に、一組来ただけ。今は……15時を過ぎている。そこまで時間がかかる問題ではないはずだ。
「な、……にを。したんですか」
「ええ~? 別に、大したことはしてないですよお」
「何をしたんですか!」
「そんなに怒らなくてもいいのにい」
「教えてください」
「しょうがないですねえ~。……じゃあその代わり、明日のミスコンに出てください」
いきなり変なことを言い出したので、どうしたのかと思ったら。
「コンテストでは必ず、優勝してくださいね?」
「……どういう、ことですか」
「あーいえ、まあ出てくださるだけでいいとしましょう。優勝はできれば。そして必ず出ること。それが条件です」
「……わかりました」
そう言うと、口の端をこれでもかと上げ、猫のように笑った。
「そうですかあ。それはよかったですう。では、何をしたか、ですね? 答えは――」
――生徒会の誰かに、ちょっと消えてもらいましたあ。



