「茶道ってさ、わびさびを大切にしてるよね。『わびしい』『さびしい』っていう自分の気持ちを認めてさ、それを尊重して行動するの。静かな部屋で、集中して心を落ち着かせる。そうして自分自身を見直して、精神を高めるんだって」
「……いきなり、なんだよ」
「でもさっき、チカくんのお茶を点ててる様子を見てたら、『寂しい』って感情全然認めてないと思ったの」
「は? 一体何言って」
「チカくんは何がそんなに寂しいの? 茶道している時、本当は全然集中もしてなかったよね。慣れてるからそんな風に見えたかもしれないけど、茶道をすることが苦しそうだった」
「ち、違う!」
「違わない。どうして自分の素直な感情を否定するの?」
「違う! オレはっ、自分の心を静める、ために……っ」
「うん。それはそうかもしれないね。でもわたしには、チカくんが茶道をすることで静められるんだって、自分に言い聞かせてるようにしか聞こえない。“茶道をしなくてはいけない”別の理由があるんじゃないかって聞いてる」
「そんなのあるわけねえだろ!」
「……そうか。それじゃあ、わたしの勘違いだ~。いやー予想が外れちゃったか。ごめんね? そんなことないのに、変なこと聞いちゃって」
葵はそう言ってコーヒーを飲む。チカゼは立ち上がって叫んだっきり、突っ立ったまま動かない。
「……悪かった。デカい声出して」
「え? ううん。怒らせちゃったのはわたしの方だし」
そう言うと、チカゼは悔しそうな顔をして「ちょっと頭冷やしてくるわ」と、生徒会室から飛び出していった。
「(……やり過ぎちゃったかな。“押してダメなら引いてみろ作戦”も失敗しちゃったし)」
葵はそう思いながら、もう彼はここには帰ってこないだろうと思って、実は大分減っていたお菓子をソファーに隠しておいた。
「(食器も片付けておこうかねー)」
そう思って食器をお盆の上に乗せて立ち上がると。



