すべてはあの花のために③


「てかよー。ヒナタの機嫌が悪くて、さっき八つ当たりされたんだわ」

「え?」

「で、もう一回お前んとこ行っただろ? あれ。もうお前ここにオレらがローテで来るって知ってんだっけか?」

「うん。それは知ってるよー」

「まあ、それでまたヒナタが帰ってきた時、今度は超ご機嫌だったんだよ」

「(ご機嫌? そんな風には見えなかったけど)」

「それで、お前となんかあったんかなーって思って」

「うーんと、わだかまりがなくなったって言ったらいいのかな?」


 そう言うと大まか察したのか、「あーなるほどな」とチカゼは頷いていた。


「悪い奴じゃねえんだけど、言葉が足んなかったり、言い方がストレート過ぎたりすっから。ま、もうわかってるだろうけど」

「うん。ちゃんとわかりやすく言ってくれたから、もう大丈夫だよ?」


「そうか」と、彼はまた大人びた顔で葵の頭をぽんぽんとしてくる。葵がその顔をじーっと見つめていると、「ど、どうしたんだよ」と言われたので、ちょっと聞いてみることにした。


「チカくんは、いつから茶道をやってるの?」

「あ? えーいつだろ。小学校の高学年……に、なるぐらい?」

「小さい頃から教えてもらってたんだね」

「そうだなー。その頃は、オレは荒んでたからなー」


 ケラケラと笑いながらそう言うが、目は笑っていなかった。


「チカくんはさ、茶道をやれてよかったって、そう思うことってある?」

「は? そりゃ、荒れてたオレがここまで落ち着いたのは――」

「そうじゃなくって。チカくん、“寂しい”って感情時々出てきちゃうでしょ?」


 葵がやわらかく言うけど、チカゼの雰囲気が急激に変わる。

“そんな話はするな”

 そう目が訴えてきている。