「てかよー。ヒナタの機嫌が悪くて、さっき八つ当たりされたんだわ」
「え?」
「で、もう一回お前んとこ行っただろ? あれ。もうお前ここにオレらがローテで来るって知ってんだっけか?」
「うん。それは知ってるよー」
「まあ、それでまたヒナタが帰ってきた時、今度は超ご機嫌だったんだよ」
「(ご機嫌? そんな風には見えなかったけど)」
「それで、お前となんかあったんかなーって思って」
「うーんと、わだかまりがなくなったって言ったらいいのかな?」
そう言うと大まか察したのか、「あーなるほどな」とチカゼは頷いていた。
「悪い奴じゃねえんだけど、言葉が足んなかったり、言い方がストレート過ぎたりすっから。ま、もうわかってるだろうけど」
「うん。ちゃんとわかりやすく言ってくれたから、もう大丈夫だよ?」
「そうか」と、彼はまた大人びた顔で葵の頭をぽんぽんとしてくる。葵がその顔をじーっと見つめていると、「ど、どうしたんだよ」と言われたので、ちょっと聞いてみることにした。
「チカくんは、いつから茶道をやってるの?」
「あ? えーいつだろ。小学校の高学年……に、なるぐらい?」
「小さい頃から教えてもらってたんだね」
「そうだなー。その頃は、オレは荒んでたからなー」
ケラケラと笑いながらそう言うが、目は笑っていなかった。
「チカくんはさ、茶道をやれてよかったって、そう思うことってある?」
「は? そりゃ、荒れてたオレがここまで落ち着いたのは――」
「そうじゃなくって。チカくん、“寂しい”って感情時々出てきちゃうでしょ?」
葵がやわらかく言うけど、チカゼの雰囲気が急激に変わる。
“そんな話はするな”
そう目が訴えてきている。



