彼は葵をソファーへと促す。
「すみません。そんなに長居はできないんです。次に行く場所が……話さないといけない人がいるので」
理事長は驚いて、空気椅子の状態のまま固まってしまった。
「いやつらいでしょ。つらいんでしょ? プルプルするぐらいならさっさと座ってくださいよ」
「あ、葵ちゃんも座ってえ~……」
つらそうだったので、しょうがなく座ってあげることに。
「それでー? 何が聞きたいー?」
しかし、何故こんなに嬉しそうなのだろう。
「いえ。そんなには」
「どうして!?」
腕を掴んで上下に大きく動かしてくる。まるで子供が駄々を捏ねるよう。
「だって、あなたより詳しい方に今から聞きに行くので」
「え。いつの間に仲良くなったの?!」
「あなたにも多分話さなかったのではないですか?」
「うーんまあね。口堅いんだよーあいつ」
理事長は口を尖らせて拗ねてしまった。
「でも、それがいいところでもあるでしょう?」
「そうだけどねー」
あれま。本当に悔しいのだろうか。完全に拗ねている。
「でも、あなたがどこまでご存じかも知っておくべきかもしれません。それでは……いいですか? 理事長」
「はーい。どこからでもどうぞ?」
そうして葵は、彼に久し振りの質問を始めた。
「まず、彼がそうなってしまったのはいつですか?」
「あれは確か、5つか6つの時かな」
理事長は指を折りながらそう答える。
「ということは、年中か年長の歳だと」
葵がそう言うと、彼は首を振った。……やっぱり何かある。
「桜李が幼稚園に通えたのは、年長の終わり頃なんだ」
悔しそうな顔だった。
「……そうなった理由は?」
「ぼくは、知らないんだ。あいつに聞いて?」
「では、彼が今おじさまと住んでいる理由は?」
「そいつが、桜李を引き取ったから」
「それまではどなたと?」
思い出したくもないのか、苦虫を噛み潰したような顔に。
「……母親、だけだよ」
彼は何とか小さくそう零す。
「……本当に、そうですか?」
「父親は、いたよ。今はもういない。そいつが引き取る前は、母親としかいなかった」
「今はもう、いないと」
「そう、だね」
葵は一旦目を瞑り、彼が言ったことを整理した。
「では、理事長にとってオウリくんは、血縁のどの位置にいるのでしょうか」
頷いた彼は、さっと紙に書いてくれた。



