すべてはあの花のために③


 彼は葵をソファーへと促す。


「すみません。そんなに長居はできないんです。次に行く場所が……話さないといけない人がいるので」


 理事長は驚いて、空気椅子の状態のまま固まってしまった。


「いやつらいでしょ。つらいんでしょ? プルプルするぐらいならさっさと座ってくださいよ」

「あ、葵ちゃんも座ってえ~……」


 つらそうだったので、しょうがなく座ってあげることに。


「それでー? 何が聞きたいー?」


 しかし、何故こんなに嬉しそうなのだろう。


「いえ。そんなには」

「どうして!?」


 腕を掴んで上下に大きく動かしてくる。まるで子供が駄々を捏ねるよう。


「だって、あなたより詳しい方に今から聞きに行くので」

「え。いつの間に仲良くなったの?!」

「あなたにも多分話さなかったのではないですか?」

「うーんまあね。口堅いんだよーあいつ」


 理事長は口を尖らせて拗ねてしまった。


「でも、それがいいところでもあるでしょう?」

「そうだけどねー」


 あれま。本当に悔しいのだろうか。完全に拗ねている。


「でも、あなたがどこまでご存じかも知っておくべきかもしれません。それでは……いいですか? 理事長」

「はーい。どこからでもどうぞ?」


 そうして葵は、彼に久し振りの質問を始めた。


「まず、彼がそうなってしまったのはいつですか?」

「あれは確か、5つか6つの時かな」


 理事長は指を折りながらそう答える。


「ということは、年中か年長の歳だと」


 葵がそう言うと、彼は首を振った。……やっぱり何かある。


「桜李が幼稚園に通えたのは、年長の終わり頃なんだ」


 悔しそうな顔だった。


「……そうなった理由は?」

「ぼくは、知らないんだ。あいつに聞いて?」

「では、彼が今おじさまと住んでいる理由は?」

「そいつが、桜李を引き取ったから」

「それまではどなたと?」


 思い出したくもないのか、苦虫を噛み潰したような顔に。


「……母親、だけだよ」


 彼は何とか小さくそう零す。


「……本当に、そうですか?」

「父親は、いたよ。今はもういない。そいつが引き取る前は、母親としかいなかった」

「今はもう、いないと」

「そう、だね」


 葵は一旦目を瞑り、彼が言ったことを整理した。


「では、理事長にとってオウリくんは、血縁のどの位置にいるのでしょうか」


 頷いた彼は、さっと紙に書いてくれた。