「さてと。それとは別に、ぼくに報告があるんだよね?」
彼はオウリのことを心配はしてないみたいだ。
イコール、それだけ葵のことを信用してくれているということ。
葵はにっこりと笑って、彼の質問に答えた。
「そうですね。……報告を、させていただければ」
❀ ❀ ❀
「――……ということですので、東條圭撫。それから二宮茜は、もう大丈夫です」
「そうか。茜くんの方はもう終わっていると思ったんだけど、報告してこなかったのはまだ完全には終われてなかったからなんだね」
彼は俯きながら、机を指でなぞっている。
「カナデくんの場合もアカネくんの場合も、きちんとご家族とお話ができていませんでした。今回はそれが原因で、あんなことが起こってしまった」
「“他にもあるけど”、でしょう?」
葵は、それ以上は言わなかった。
それは葵も、彼もわかっていることだから。
「ま、だから君にお願いしたんだけどね。きちんと全員、大丈夫かな?」
「はい。アカネくんのご家族も、納得してアカネくんの夢を支えていってくれるみたいです。カナデくんも、組の人たちも、彼女さんだったユズちゃんも、雨宮先生も。きちんと全ての話ができています。なので……もう、大丈夫です」
そう言うと、彼は少し困ったように笑った。
――……何か違った?
「何か、抜けていますか?」
「ううん? よかったなーと思って」
彼の顔は、もういつもの笑顔だったけど。
「(……なんだ? 何かが、本気で抜けている……?)」
あまり悩まないようにしてたから、もしかしたら抜けているのかもしれない。
「(でも、ちゃんと決着はついたはずだ。みんな、大丈夫だ)」
葵は、一度深呼吸をした。
「報告は以上です。それから理事長、少し伺いたいことが」
「体調はどうかな?」
被さるように尋ねる彼の目は、真剣そのものだった。
「……ぼちぼち」
「ではないんでしょう?」
葵はぎゅっと自分の手を握り締める。
「……そう、ですね」
「もうすぐなの?」
葵は苦笑いしながらなんとか言葉を紡ぐ。
「いつかはわかりません。でも、願いはきちんと叶えます」
「無理は、して欲しくないんだけど……」
「何言ってるんですか。願いを言う時点でわかってたことでしょう?」
「ま、そうなんだけどね」
彼もなんだかつらそうだった。
「それにはあなたの協力も必要です。……理事長。久し振りに、お話しませんか?」
「……うん。そうだね。ぼくでわかるところなら話してあげるよ」



