すべてはあの花のために③


 葵は、「それは違うよ」とゆっくり首を振る。


「オウリくんのこと、ずっと心配だったと思う。けど、彼がそうして欲しくなかったから、今までみんなは近づけなかったんだよね?」


 アカネはこくりと頷く。


「でも、今はオウリくんのこと知ろうとしてる。みんながちゃんと、お互いのことを知ろうとしてくれたこと、わたしはすっごく嬉しいんだ」


 ふわりと笑う葵に、アカネは目を見開いた。


「そっか。そうだね。おれらは今、頑張ってるんだ」

「うん。でも、みんなだけじゃダメなんだ。オウリくんも、今頑張らないといけない。だから、一方通行じゃダメなんだ。今のオウリくんの気持ちも、ちゃんとわかってあげないと」


 葵がアカネのスマホ画面をツンッと突く。
 するとアカネは、こくりと頷いた。


「今は、そっとしておいた方がいいもんね。みんなには一応そう伝えてみるよ。でもみんな、おうりの顔見ないと帰りそうにないけど」


 そうしてアカネはみんなに連絡を入れていた。


「アカネくん、君なら何か知ってるんじゃないかな。オウリくんがそうなってしまったこと。オウリくんは、君と同じ技の持ち主だから」


 葵が少し不安げにそう聞くと、彼はクスッと笑っていた。


「珍しく自信がなかったの? いつもは知ってるみたいに話すのにい」


 クスリと笑いながら聞くアカネに、葵は不安そうな顔を崩さない。


「……詳しくは知らないよ。ほんのちょっとだけ。多分みんなは知らないことだけど。おれが話さなかったから」


 そう言って彼は、昔の話をする。
 それは、みんなと会う少し前。アカネとオウリが初めて出会った時の話。



「おれが小学校に上がった年にね? みんなより一年早く、おうりと出会ったんだ」