「……きっと。似合うよ……?」
「――!」
まずは、前髪をそっと指で摘まんで。
「……上手に。切ってあげるね……?」
「……うん。あり。がと……」
次に、目元に触れて。
「……眼鏡。外せたんだねっ。……これ。なんぼん……?」
そう言って彼女は、自分の目の前に指を二本立てて見せてくる。
「ははっ。二本、だよっ」
目が悪くないこと。これが伊達だってこと。
ちゃんと知ってるのに、そんなことを言う彼女が、本当に愛おしくてたまらない。
そして最後は、両頬を包んできて……。
「……ずっと。待ってたよ」
「ん? 何を?」
聞き返すと、葵はちょっと口を尖らせて拗ねた後、涙を流しながらニカっと笑う。
「あかねくんが。自分から変わろうとしてくれること。……ずっと。待ってたっ」
「――!」
そんな言葉を聞かされて。……笑顔を間近で見せられて。
――もう、止められるわけがなかった。
アカネは葵を自分の腕の中にすっぽりと抱き締める。これでもかと言うほど、これ以上くっつかないとわかっていても、強く抱き締める。
そんなアカネの心情を知ってか知らずか、葵は何とかアカネの背中に腕を回して、彼の背中を摩ってあげていた。
「あおいっ、ちゃん……」
「ん? なーにあかねくん?」
摩ってくれる手が温かくって、安心する。
「おれ、あおいチャンのこと。しっかり見ておくからねっ」
アカネはゆっくりと腕の力を緩め、葵の顔をしっかり見ながら言う。
「あおいチャンのこと、ちゃんと見てるから」
「? ……うんっ。ありがとー」
首を傾げる葵はちゃんとわかってないんだろう。それでも。
「あおいチャン? おれはずっと、君のそばにいるよ」
アカネの手は、葵の前髪をふわりと掻き上げた。
するとそこから、彼女の真っ白で滑らかなおでこが現れる。
「おれは必ず、あおいチャンのそばでちゃんと見てる。何があっても、絶対っ」
真っ白な肌に、そっとキスを落とす。
「おれが、ちゃんとあおいチャンを幸せな未来に連れて行ってあげるっ!」
葵は一瞬、目を見開いて固まっていたけれど。
「ははっ。……それは、とっても楽しそうな未来だねっ」
二人して笑い合った。
今の自分が伝えられる、精一杯の、彼女への思いを込めて。



