すべてはあの花のために③


「……きっと。似合うよ……?」

「――!」


 まずは、前髪をそっと指で摘まんで。


「……上手に。切ってあげるね……?」

「……うん。あり。がと……」


 次に、目元に触れて。


「……眼鏡。外せたんだねっ。……これ。なんぼん……?」


 そう言って彼女は、自分の目の前に指を二本立てて見せてくる。


「ははっ。二本、だよっ」


 目が悪くないこと。これが伊達だってこと。
 ちゃんと知ってるのに、そんなことを言う彼女が、本当に愛おしくてたまらない。

 そして最後は、両頬を包んできて……。


「……ずっと。待ってたよ」

「ん? 何を?」


 聞き返すと、葵はちょっと口を尖らせて拗ねた後、涙を流しながらニカっと笑う。


「あかねくんが。自分から変わろうとしてくれること。……ずっと。待ってたっ」

「――!」


 そんな言葉を聞かされて。……笑顔を間近で見せられて。
 ――もう、止められるわけがなかった。


 アカネは葵を自分の腕の中にすっぽりと抱き締める。これでもかと言うほど、これ以上くっつかないとわかっていても、強く抱き締める。
 そんなアカネの心情を知ってか知らずか、葵は何とかアカネの背中に腕を回して、彼の背中を摩ってあげていた。


「あおいっ、ちゃん……」

「ん? なーにあかねくん?」


 摩ってくれる手が温かくって、安心する。


「おれ、あおいチャンのこと。しっかり見ておくからねっ」


 アカネはゆっくりと腕の力を緩め、葵の顔をしっかり見ながら言う。


「あおいチャンのこと、ちゃんと見てるから」

「? ……うんっ。ありがとー」


 首を傾げる葵はちゃんとわかってないんだろう。それでも。


「あおいチャン? おれはずっと、君のそばにいるよ」


 アカネの手は、葵の前髪をふわりと掻き上げた。
 するとそこから、彼女の真っ白で滑らかなおでこが現れる。


「おれは必ず、あおいチャンのそばでちゃんと見てる。何があっても、絶対っ」


 真っ白な肌に、そっとキスを落とす。


「おれが、ちゃんとあおいチャンを幸せな未来に連れて行ってあげるっ!」


 葵は一瞬、目を見開いて固まっていたけれど。


「ははっ。……それは、とっても楽しそうな未来だねっ」


 二人して笑い合った。
 今の自分が伝えられる、精一杯の、彼女への思いを込めて。