「(……? あ、あれ?)」
アカネは目を擦る。
今、何か変なものが見えた気がした。
「(久し振りに外したから……かな)」
葵は、あれから何も言わないアカネに首を傾げている。
ああ。やっぱり可愛いなと、一人でにやついていると、目の前の彼女はちょっと恥ずかしそう。
ずっとこのまま、見ていたい気もするけれど。
「……よかったらおれの髪、切ってくれない?」
これから、おれは変わる。もう、君を守られる。
あの日、塀を跳び越えていった奴から、必ず君を守ってみせるよ。
自分のために。そして大事な君のために。
おれは、自分の力を使ってみせる。
おれは必ず、君を守ってみせる。
そう決めた、おれの第一歩を君に見せたかった。
……ううん。君だから、見ていて欲しい。
「え。アカネくん、一気に坊主になるよ?」
まさかのバリカンっ!?
「そ、それだけはまだちょっと勘弁して欲しいんだけど……」
項垂れると葵の肩が少しだけ震えているのに気づく。
「(絶対あおいチャン、おれの坊主姿想像して笑ってるなあ……!)」
そう思って拗ねる準備をして顔を上げる途中、透明な何かが、彼女の頬を滑って落ちた。
葵の瞳から、ぽろぽろと涙が溢れてくる。
アカネは、準備していた顔を中途半端に変えたせいで変な顔になっていた。
でも目の前の彼女は、涙を拭こうともせず、ただぽろぽろと泣き続けるだけ。
「あ。あおいチャン、そんなに切って欲しくない? それか切りたくなかった? それとも想像したおれの坊主頭が気持ち悪かった……?」
葵が泣き出してしまった理由がさっぱりわからなかったアカネは、取り敢えず指で流れ続ける涙を拭ってやる。
そうしているうちに、彼女の手が自分の顔に伸びてきた。そして、目の前の彼女は泣きながらふわっと笑ったあと、ぽつりぽつりと言葉を零す。



