病室を出て、みんなと一緒に病院のバス停まで急ぐ。エレベーターを使い、エントランスホールへと向かっていた時だった。
「……え。おーちゃん?」
消え入りそうな、女の人の声。
きっと気づいた人は少ないだろう。
いいや。その声には気づかなかったけど、彼の異常なほどの怯えには気づいた。
「おーちゃん! おーちゃんなのね!」
甲高い声を出しながら、やせ細っている女性がゆっくりと近づいてくる。彼女が一歩、また一歩と近づく度に、彼の息が詰まっていった。
徐々に上手く呼吸ができなくなっていく彼の手をしっかりと掴み、葵は何よりも真っ先に彼女から遠ざけることに。
「おうっ! 待ちなさいおうッ‼︎」
一度だけ振り返ると、狂ったように叫び出す彼女をスタッフや警備員、そしてガタイのいい男性が取り押さえているのが見えた。
彼女の姿が完全に見えなくなってから急ブレーキをかけた葵は、彼の頬を包むように触れる。
「オウリくん息して! 息! ゆっくりでいいから!」
意識が混濁しているのか、いくら声をかけてもオウリの焦点が合わない。けれど、葵の手に爪痕をつけるくらいには、体に力は入っている。
もしかしたらフラッシュバックを起こしているのかもしれない――――葵は意を決し、彼の頬を平手打ちする。
「――ッ!」
パシンと乾いた音が、朝の早い時間に響いた。みんなは、葵とオウリを心配そうに見つめている。
「……オウリくん。ゆっくり息、できる?」
「(…………こくり)」
彼は自分を落ち着かせようと、必死に深呼吸を繰り返す。けれど震えは収まらなくて、葵はバスが来るまで――そしてバスが来てもずっと、彼の手を握り続けてあげた。



