すべてはあの花のために③


「あ。オウリくん……」


 いつの間に戻ってきていたのだろう。彼は小さく笑って、葵が結ぼうとしていたミサンガを結んでくれた。
 結んでくれたミサンガをじっと見つめた後オウリと目が合うと、彼は苦笑い。どうしたのかなって思ってたら、彼の両手が葵の頬に伸びてきて、涙のあとを拭ってくれた。


「ん。……あ、ありがとう。オウリくん」


 彼の、葵を見つめる視線がとてもやわらかいものだったので、葵は恥ずかしくて目を逸らしたのだが、オウリは葵の頬から手を離さなかった。
 そんな葵を見てオウリはクスッと笑った後、顔を近づけて葵のまだ涙が残っている目元にキスをくれる。


「お。おうり、くん……っ?」


 彼はそのまま葵に腕を回して、ぎゅっと抱き締めてくる。


「――――っ。……――――っ。……ッ」


 スースーと息が漏れるような、そんな音が耳に何とか届く。


「(オウリくん。もしかして話そうとしてくれてる……?)」


 でも、なんだかつらそうだった。ここに来てから少し様子がおかしいのと、何か関係があるのだろうか。

 彼の腕は、体は、少しだけ震えているような気がした。それが、きっと葵に伝わってしまわないように、ぎゅっと抱き締めているんだろうけれど……。


「(なんだかわたしに縋ってるようだよ)」


 葵は、彼が安心してくれるように、ゆっくりと背中を撫でてあげた。
 初めは驚いて体を硬くしたけれど、ゆっくり葵が何度も撫でてやると、ゆっくり力を抜いてくれた。


「大丈夫だよ? 焦らなくていいよ? ゆっくり行こう? ……ここに。何か、あるのかな」

「……!」


 また体を硬くしてしまった。
 そんなつもりで言ったわけじゃないんだけど。


「また、ゆっくり聞かせてね? オウリくんの助けに、わたしがいつでもなってあげるからね?」


 本当は、今すぐ聞きたい。
 彼の不安を取り除いてあげたい。
 それでも、ゆっくり時間もかけてあげたいとも思う。

 彼は、返事の代わりにこくりと頷き、力強く葵の体を抱き締めた。