「……怪盗さん。わたしは。本当に、幸せになってもいいんでしょうか……」
葵は、流れる涙を拭かずにそう小さく口から漏らす。
「あなたの言うとおり。この歌って、本当は悲しい話……だったんですね」
真っ暗闇の中、辺りを照らしているのは、もう空に浮かんでいる月だけだ。
「真っ暗の世界にいるわたしを照らしてくれる、あなたはまるで。この空に浮かぶ綺麗なお月様だ」
掴めもしない月に、勝手に手が伸びてしまう。
「怪盗さん。聞こえて、いますか……?」
わたし、あなたのこと。あの時も、電話でも。信じていなかったんです。
……違いますね。信じたかったんですけど、できないって決めつけていました。ごめんなさい。
でも、新しい友達に言われました。自分がそうなると思ってないと、そうなることなんてないんだって。
……わたし、あなたのこと信じます。
あなたはきっと、わたしを幸せな道へ導いてくれる。
たとえ忠告をされたって、わたしはあなたを、自分を、みんなを信じます。
もう決めました。わたしは変わる。誰に何と言われようとも、わたしは幸せになってみせますよ。
決めつけもしません。その友達が言ってました。
幸せは人に平等に訪れるって。
わたしは、今の幸せだけじゃないって信じたい。
……人を、好きになることは、まだ先でもいいかなって思いました。それは諦めたわけじゃないです。
わたしの未来には、絶対に幸せがあるから。それまで楽しみに取っておこうと思いますよ。それまでに恋に落ちるかもしれませんけどね?
あなたが、わたしを導いてくれた時。運命だけじゃない、わたしの行くべきだと思っている道も変えられたなら、あなたの勝ちです。
賭はわたしの負け。その時はきちんと、自分に正直になります。
気持ちを……伝えることがあるかどうか、この先の未来が楽しみで仕方ないです。
あなたを、好きになっているんでしょうか。それも少し楽しみです。
本当のあなたに出会えた時、またきちんとお礼をさせてください。あなたが喜ぶもので、わたしはきちんと、お礼がしたいので。
「あなたがわたしの運命だけでなく、道を変えてくれること。わたしは信じてます。できるって、そう願ってます」
葵は上着のポケットに手を突っ込み、何かを取り出す。
「このミサンガに【願い】を……そう、込めておきます。それが叶う時、このミサンガはきっと、わたしの左腕からはもういなくなっているのでしょうね。みんなとお揃いだから、なくなってしまうのは寂しいですけど……これが切れるその日を、わたしは楽しみに待っていることにします」
そう言って葵は自分の左手首に、チカゼたちからもらったミサンガを【願い】を込めながら巻き付けていく。なかなか結ぶのが難しくて悪戦苦闘していると、すっと誰かの手が伸びてきた。



