内容を確認した葵は、そっとそれを封の中に入れ、ビリビリに破く。
「……大丈夫?」
先生はそう言って葵の背中をさすってくれる。
その手は、熱いぐらいに温かかった。
「はい、大丈夫です。ありがとうございました」
葵は小さく破った封筒をかき集め、両手で包んだかと思ったら窓の方へ。そこの窓を開け、そして外に、腕を思い切り伸ばした。
冷たくなった風が、ちぎった赤い紙切れを葵の手の平から攫っていく。まるで夜空に、季節外れの真っ赤な花が、綺麗に舞って儚く散るように。
「……道明寺さん。あなた、何を隠しているの」
「隠すも何も、あなたは知っているんじゃないですか?」
葵はにっこり微笑んで、花びらが散っていった窓の方から彼女へと向き直る。
「道明寺さん……」
「このこと、みんなは知りませんよね」
葵は鋭い目つきで、先生に問う。
「ええ。あなたが倒れたこと。それから、その原因がスマホだったというだけで、すごい心配そうにしていたもの。これ以上、心配事を増やすわけにはいかないわ」
「そうですか。……それはよかった」
葵が本当に安心したように、ほっと息をついたので、今度は先生が尋ねてくる。
「道明寺さん、改めて言うわ。私には生徒を守る義務がある」
先生の、葵を見つめるその瞳は、やはりとても鋭かった。
「ええ。わかってます」
こんな得体の知れないような奴の傍にいてはまた、変な事件に巻き込まれてしまうと。そういうところだろう。彼女はもう、みんなをつらい目に遭わせたくはないのだから。
本当は動かしたくない足を無理矢理動かし、病室の入り口へと向かう。取っ手に手を伸ばした時「待ちなさい」と声が掛かった。
「なんでしょうか」
自分だって、本当は出ていきたくはなかった。みんなとまだ一緒にいたかった。
けど、そうできなくなってしまったなら、今のうちに出ないと。また……我が儘を言ってしまう。
「あなた、勘違いしてるわ」
こうも人は、コロコロと態度が変えられるものだろうか。
今はもう、鋭い瞳などではなく、彼女の瞳は温かい。
「私には、生徒を守る義務がある」
「それは先程から何度も聞いています」
葵はそう言って、もう一度ドアに手を掛けるが。
「あなたも私の生徒でしょう?」
「え。……なった覚えは」
「いいえ。私はあの時から、あなたを自分の生徒だと思ってる。だから『私にできることはある?』って聞いたの」
葵は目を見開いた後、考えた。
彼女にしてもらいたいことなんて、そんなの決まってる。



