すべてはあの花のために③


 内容を確認した葵は、そっとそれを封の中に入れ、ビリビリに破く。


「……大丈夫?」


 先生はそう言って葵の背中をさすってくれる。
 その手は、熱いぐらいに温かかった。


「はい、大丈夫です。ありがとうございました」


 葵は小さく破った封筒をかき集め、両手で包んだかと思ったら窓の方へ。そこの窓を開け、そして外に、腕を思い切り伸ばした。
 冷たくなった風が、ちぎった赤い紙切れを葵の手の平から攫っていく。まるで夜空に、季節外れの真っ赤な花が、綺麗に舞って儚く散るように。


「……道明寺さん。あなた、何を隠しているの」

「隠すも何も、あなたは知っているんじゃないですか?」


 葵はにっこり微笑んで、花びらが散っていった窓の方から彼女へと向き直る。


「道明寺さん……」

「このこと、みんなは知りませんよね」


 葵は鋭い目つきで、先生に問う。


「ええ。あなたが倒れたこと。それから、その原因がスマホだったというだけで、すごい心配そうにしていたもの。これ以上、心配事を増やすわけにはいかないわ」

「そうですか。……それはよかった」


 葵が本当に安心したように、ほっと息をついたので、今度は先生が尋ねてくる。


「道明寺さん、改めて言うわ。私には生徒を守る義務がある」


 先生の、葵を見つめるその瞳は、やはりとても鋭かった。


「ええ。わかってます」


 こんな得体の知れないような奴の傍にいてはまた、変な事件に巻き込まれてしまうと。そういうところだろう。彼女はもう、みんなをつらい目に遭わせたくはないのだから。

 本当は動かしたくない足を無理矢理動かし、病室の入り口へと向かう。取っ手に手を伸ばした時「待ちなさい」と声が掛かった。


「なんでしょうか」


 自分だって、本当は出ていきたくはなかった。みんなとまだ一緒にいたかった。
 けど、そうできなくなってしまったなら、今のうちに出ないと。また……我が儘を言ってしまう。


「あなた、勘違いしてるわ」


 こうも人は、コロコロと態度が変えられるものだろうか。
 今はもう、鋭い瞳などではなく、彼女の瞳は温かい。


「私には、生徒を守る義務がある」

「それは先程から何度も聞いています」


 葵はそう言って、もう一度ドアに手を掛けるが。


「あなたも私の生徒でしょう?」

「え。……なった覚えは」

「いいえ。私はあの時から、あなたを自分の生徒だと思ってる。だから『私にできることはある?』って聞いたの」


 葵は目を見開いた後、考えた。
 彼女にしてもらいたいことなんて、そんなの決まってる。