すべてはあの花のために③


 葵が笑ってそう言っても、オウリの顔はだんだん険しくなっていくばかりだった。


〈あーちゃんは今つらいの?〉

「え?」


 猛スピードで文字を打っては見せ、打っては見せを繰り返して文章を見せてくる。


〈あーちゃんは今苦しいの?〉

「おうり、くん」

〈あーちゃんは今
 悲しいの?〉

「……わたし、は……」

〈じゃあ楽しい?〉

「え? うん。楽しいよ?」

〈嬉しい?〉

「うん」

〈幸せ?〉

「……うん」

〈自分がちゃんと笑顔になってるかどうか
 ちゃんとわかってないのに?〉

「――!」


 葵は思わず自分の顔に触れる。……もしかして今、笑えていなかった?


〈そうするってことは
 ほんとの笑顔になれてないってことでしょ?
 少なくとも今の話をしている時はそうだったよ〉

「オウリくん……」

〈強くなったって?
 どこが
 あーちゃんはこんなにも弱いのに〉

「え」


 そう言ってオウリは、葵の肩をとんと押して、葵をソファーの上に仰向けにする。


「え? オウリ、くん?」


 オウリは何も言わず、葵の両手首を取って、組み敷いてくる。

“解ける? 解けるなら解いてみなよ”

 そんな意味を込めて葵を挑発してくるが、彼の瞳が悲しそうで、葵は動けなかった。


「……オウリくん。放して?」


 そう言っても、彼はぶんぶんっと頭を横に振って、放してくれそうにない。


「放してくれないと、悲しそうなオウリくんを、抱き締めてあげられない」


 彼も自分の表情に今気づいたのか、目を見張った瞬間、彼の目から零れた涙の雫が、葵の頬にころんと乗って滑り落ちていく。
 それを皮切りに、彼の目からぽろ。またぽろっと、雫が落っこちた。