すべてはあの花のために③


「あなたは結局(、、)、いつ桜に編入してきたのかしら?」

「……高1の春ですが」


 先生は、ゆっくり質問をしてきて、ゆっくり考えている。


「そうなのね。もっと早くに来るかと思ってたわ」

「先生は、わたしのことをご存じなんですね」


 何故、知っているのか。
 何を、どこまで知っているのか。
 それは葵にもわからないけれど。


「だってあなた、本当は中学の時に編入してくるはずだったでしょう?」

「……そう、ですね。そのはずだったんですけど……」


 先生は眉を顰めた。
 葵の言葉、ひとつひとつを聞き漏らさないように。


「だったけど……どうして編入してこられなかったのかしら」

「先生は、ご存じじゃないんですか」


 きっと知っているはずだ。
 なのに何故、彼女はそれをわざわざ聞いてくるのだろう。


「寝過ぎて頭が呆けてるのかもしれないわ。記憶が曖昧で、あなたのこともすっかり忘れていたもの」


 そう言う彼女は、嘘はついていないように見える。


「……準備が。整わなくて」

「何の準備?」


 ぐいぐいと容赦なく突っ込んではいるが、聞き方は葵のことを本当に心配しているようだった。だから、素直に答えることにした。


「……っ。わたしの、です……」

「……私も詳しくは知らないの。あなたのことは、少し理事長に聞いたくらいで」

「り、理事長が、話したんですか? わたしのことを?」

「……私が、本当はあなたの担任をする予定だったから」


 葵は固まってしまった。
 ――ダメだ。これは、決して公言してはならない。


「大丈夫よ。全部は知らないからそんなに緊張しないで。……理事長も、話せなくて苦しそうだったのを覚えてる」

「……そう、ですか」


 なら、恐らくキクやトーマに話していることと、そう大差ないだろう。


「だから、さっき『体調は大丈夫?』って聞いたのよ」

「はは。……なんとか、って感じですけどね」


 葵は乾いた笑いとともに、それだけ言った。