「あなたは結局、いつ桜に編入してきたのかしら?」
「……高1の春ですが」
先生は、ゆっくり質問をしてきて、ゆっくり考えている。
「そうなのね。もっと早くに来るかと思ってたわ」
「先生は、わたしのことをご存じなんですね」
何故、知っているのか。
何を、どこまで知っているのか。
それは葵にもわからないけれど。
「だってあなた、本当は中学の時に編入してくるはずだったでしょう?」
「……そう、ですね。そのはずだったんですけど……」
先生は眉を顰めた。
葵の言葉、ひとつひとつを聞き漏らさないように。
「だったけど……どうして編入してこられなかったのかしら」
「先生は、ご存じじゃないんですか」
きっと知っているはずだ。
なのに何故、彼女はそれをわざわざ聞いてくるのだろう。
「寝過ぎて頭が呆けてるのかもしれないわ。記憶が曖昧で、あなたのこともすっかり忘れていたもの」
そう言う彼女は、嘘はついていないように見える。
「……準備が。整わなくて」
「何の準備?」
ぐいぐいと容赦なく突っ込んではいるが、聞き方は葵のことを本当に心配しているようだった。だから、素直に答えることにした。
「……っ。わたしの、です……」
「……私も詳しくは知らないの。あなたのことは、少し理事長に聞いたくらいで」
「り、理事長が、話したんですか? わたしのことを?」
「……私が、本当はあなたの担任をする予定だったから」
葵は固まってしまった。
――ダメだ。これは、決して公言してはならない。
「大丈夫よ。全部は知らないからそんなに緊張しないで。……理事長も、話せなくて苦しそうだったのを覚えてる」
「……そう、ですか」
なら、恐らくキクやトーマに話していることと、そう大差ないだろう。
「だから、さっき『体調は大丈夫?』って聞いたのよ」
「はは。……なんとか、って感じですけどね」
葵は乾いた笑いとともに、それだけ言った。



