「……道明寺 葵ちゃん、かあー。……うーん。ちゃんと、聞こえるかな……」
みんなを見送った後、ユズは一人スマホを操作する。
『……なって。みたい……』
「う~ん。ノイズだらけだし、あおいちゃんの声が小さいかも……」
録音アプリから再生ボタンを押すと、先程の会話が聞こえてくる。
「うん。まあこんなもんでしょ。わからなかったら、聞いてきてくださいね~……っと」
ある宛先に添付して、送信ボタンをぽちり。
「あたしも『あの人』の駒だからさー。……あーでも、改めてするとすっごい罪悪感……」
でも、あたしも情報もらってたわけだし。
今日のことも教えてもらっちゃったし。
「ギブアンドテイクだから、仕方ないのかなあ」
容量が重く時間はかかったが、『送信完了』の文字が出て、ひとまず安堵の息を吐く。
「よし! 報告完了っとー!」
ユズはスマホを収め、大きく一歩を踏み出す。
「次はあの人たちが来るんだっけ? もう事情はちゃんと知ってるんだから、来なくてもいいのにね~」
ルンルンで歩みを進めていたユズは、一度立ち止まってバスが去った方を振り返る。
「……ごめんね。あおいちゃん」
小さく呟いた謝罪は、誰に聞こえることなく静かに消えた。



