すべてはあの花のために③


「……なって。みたい……」


 今でも涙を流す葵から小さく零れたその言葉は、なんとか目の前のユズに届くだけ。その葵から漏れた必死の言葉に、ユズはゆっくりと頷いてあげる。涙を流す葵につられ、ユズも一緒に涙を流していた。


「……恋に。落ちて。みたい……」

「……っ。うん。だいじょうぶ。だよっ?」


 ユズはゆっくり葵の頭を撫でてやる。瞬きをする度に、綺麗な涙が落ちていく。


「……なっても。いい。のかな……」

「うんっ。もちろんっ」

「……こんな。わたしっ。でも……?」

「……っ、うんっ」

「愚かで。醜くて。……花を。枯らしてしまうような。……っ、こんな。わたし、でも……いい。のかな」

「……? ……うん。もちろんだ。でもっ、そんなことない。あおいちゃんは人を幸せにできる人だから」


「だってさっき、あたしは幸せだった。あおいちゃんのおかげだよ」そう言ってくれるユズに、「そ。かっ」と少しだけ泣きながら笑った。


「……わたし。幸せに、なってみたい。です」


 キサとユズは嬉しそうに笑って、葵をぎゅーっと抱き締めてくれた。


 遠くで見ていた男子陣は、いろんな顔をしていた。
 葵を取られたと思ったのか、眉間に皺を寄せたり、悲しそうな顔をしたり、悔しそうな顔をしたり。
 でもその中には、目を細めていたり、苦笑いしてたり、温かく見守っていたり、心配そうに見つめてくれていたりしている人もいた。


 あっという間にバス停に到着。
 ユズと打ち解けた葵は、その後キサと一緒に昔の話を聞いていた。


「ユズちゃん、キサちゃん、ありがとう。なんかスッキリした」

「あっちゃんが幸せならそれが一番だ!」

「そうだそうだー!」


 そうこうしていると、向こうからバスが来るのが見える。


「そうだ、あおいちゃん」

「ん? なーにユズちゃん」


 どうしたんだろうと思ったら、急に手を握られた。


「あたしね、あおいちゃんなら女の子でも大歓迎だからね」

「へ?」


 ほっぺたに彼女らしい可愛いキスが落とされて、葵は驚く間もなく固まった。


「へへ。なんか変なスイッチ入っちゃった」

「ゆ、ユズちゃん……?」


 キサはもちろん、よく見ると面白いくらい男子陣も固まっていた。