すべてはあの花のために③


「あおいちゃん。人を好きになったことがある?」

「え? ……えっと。ない、です……」

「だったらこれから楽しみだね!」

「どういうこと……?」

「だって人を好きになるって、本当にすごいことなんだよ。その人のことを考えるだけで、嬉しくなったり、恥ずかしくなったり、悲しくなったり、苦しくなったり。それに、体が勝手に動いちゃう時だってあるんだ!」

「え? ……でもそれって、友達にもなるでしょう?」

「それが比じゃないんだよ! 好きな人になると、超嬉しくなったり、超沈んじゃったり! 勝手に体が動いて抱き締めたり、終いにはちゅーしてしまうという!」

「ちゅう⁉︎」

「そのぐらい、すごい存在なんだ。そんな人を見つけたなら、きっと今でもすごいあおいちゃんは、飛びかかっていきそうだね!」


 ユズは楽しそうに笑うが、葵は苦しそうな顔をするだけ。


「……もしかしてあおいちゃん、自分が嫌い?」

「うん。すっごく」


 低い声。鋭い目つき。
 ユズの問いにも食い気味で躊躇わない。

 そんな葵に、キサもユズも驚いて一瞬止まってしまった。


「で、でもさ、そんなあおいちゃんのことを、好いてくれる人はいるでしょう? あたしも一瞬であおいちゃんの虜になっちゃったよ」

「…………」

「あっちゃん……」


 そして何よりも鋭い雰囲気。返事をしようとしない葵。
 そんな彼女は、どこを見ているのか。何を考えているのかもわからない。


「……うんっ。そんなに自分のことが嫌いなら、まずは好きになることから始めないとだね! じゃないと好きな人なんてできないさ~」

「え?」


 ユズがそう言うと、やっと焦点が戻ってくる。


「だって、自分を大事にできないなら、相手のことも大事にできないよ」

「そ、そんなことない!」

「じゃあさ、自分の『ここは好きだなー』とか、そういうとこはある?」

「…………強い、とこ?」


 葵がそう言うと、ユズとキサは思わずずっこけてしまった。「うん。まあ今はそれでいいや」と続ける。


「あおいちゃんが好きなところなんだから、他の人も好きになってくれると思わない? それともあおいちゃんは、自分を好いてくれる人なんていないって思ってる?」


 葵は、そう言われて、緩く首を振る。
 だって、好いてくれる人はいてくれるから。


「でも、自分は好きになる資格なんてないって。そう思ってる。違う?」


 そういうことを伝えていたキサの方を見るけれど、「あたしは言ってないよ?」と返ってきた。


「きさちゃんには、あおいちゃんがわざとと思うくらい、自分のことに関して鈍感だって聞いただけ。でも確かに、ちゃんとみんなから言われないと、ほんとのとこの気持ちってわからないよね」

「……わたし。は……」

「どうしてそこまで気づかないのか。好きって気持ちから逃げようとしているのか。あたしにはわからないけど……あおいちゃんは、人を好きになりたい?」


 葵は歩く速度を落とし、ゆっくりと止まる。
 ユズとキサは葵の方を振り返る。葵は俯いていた顔をゆっくり上げ、二人に視線を合わせた。