「俺がユズちゃんに会いに来たのは、もう大丈夫なんだよって報告したかったから」
返事はしなかった。ただ、振られるのがわかってるにも関わらず彼の話を止めなかったのは、やっぱり彼の声が、隣が居心地よかったから。
「ユズちゃんが俺の前から消えたのは、俺のためだって知ってたから、もう会ってもいいんだって、言いに来た」
ユズはこくりと頷く。自分だって、ずっと、会いたかった。
「それと、その時に守れなくてごめんなさいって、言いに来た。……あの時、気づいてあげられなくてごめんね。俺のこと、守ってくれてありがとう」
彼がふわりと笑う。もう、本当に吹っ切れたような笑顔で。
「あとそれ。返しに来た。ちゃんと肌身離さず持ってたよ、俺は」
ユズは、自分の首に掛かっているロザリオを服の上からぎゅっと握る。
「ユズちゃんのおかげで。それのおかげで。俺は今、こうして笑っていられるんだ。感謝してもしたりない。……俺が、あの時もっと強かったらって、ずっと後悔してた」
そんなことないと、ふるふると首を振る。そんなユズの様子に、カナデはふっと笑った。
「今更悩んだってしょうがないんだけどね。……あの頃はそうだったから、これから俺は強くなるよ。大切な人を、守るために」
カナデはそう言って微笑んだ。――ああ。また振られるんだと、心を決める。
「さっき、もう俺は前に進んだからって言ったでしょ?」
ユズはこくりと頷いた後、俯いてしまう。そんな様子に、カナデは小さく息を吐いた。
「落ち込ませたかったわけじゃないんだ。でも、ちょっと言葉が足りなかったみたいだから、改めて聞いてくれる……かな」
「え?」
ユズは、ここでやっと声が少しだけ出せた。
「ユズちゃんとはお付き合いはできない。今の俺にはもう、心に決めた人ができちゃったから」
「うん。見てたら。すぐにわかったよ」
ユズがくしゃくしゃの笑顔でそう言うと、カナデも同じような顔をして笑う。
「今さっきその子に『言葉が足りてないんじゃあ弱虫があー!』って、怒られちゃってね」
ユズは目が点になってしまった。そんな様子のユズに、カナデはクスッと笑う。
「ビックリしちゃうよね。俺らも最初は驚いたんだよー。ズカズカ土足で踏み込んできてさ、自分が大事にして開けなかった箱を、あの子は『そんなもの知るかー!』って勝手に開けていっちゃうから」
「……それは。あたしにはできないや」
相手が開けたくないのなら、そっと見守ってあげていたいもの。一緒にそれを守ってあげたいと思うもの。



