すべてはあの花のために③


「……きさちゃん」

「ほい。なんだね柚子」


 ユズはというと、泣きそうだった涙は引っ込んでしまったようだ。


「あおいちゃんでしょ。かなくんが前に進んだ相手」

「それは見てたらわかるんじゃない?」


 そう言っていた二人は、カナデに思い切りタックルを食らわす葵を見て、盛大に吹き出した。ぶっ飛ばされたカナデはというと、次に四の字固めを掛けられていて痛がっていたが、それさえもなんだか嬉しそうで。


「いやいや。絶対そうでしょうよ」

「どうしてそうだと?」


 キサは意地悪く、そう聞いてくる。
 ユズは口を尖らせて拗ねてしまった。


「あんな嬉しそうな顔、あたしの時もしてなかったもん」


 もうあんな顔されてしまったらお手上げだと、彼女は両手を挙げる。


「そんなことないよ。柚子の隣歩いてたあいつの顔、超デレデレだったし」

「ははっ。……でもかなくん、これからが大変そうだね」

「さっすが。ちょっと見ただけでわかるよねー普通は」


 二人が見ていたのは、カナデから葵を引き剥がそうとしているみんな。いつの間にかカナデは、四の字固めを抜け出して、葵に抱きついていたのだ。
(※圭撫は脱出レベルが上がった▼)


「わかるでしょうよ。あれだけわかりやすかったら」

「それがですね。残念なことにただ一人、気づいてないんですよねー」


 キサの言葉に、ユズはだんだんと顔が険しくなる。


「……そうだよね。わかってたら、そもそも恋愛講義なんて受けてないよね」

「他の……まわりの人の変化に関しては、すっごい敏感なんだよ。きっと柚子も救われる」


 ユズは首を傾げるけれど、そのままキサは続けた。


「ほんと、自分のことになるととことん鈍感。寧ろわざとなんじゃないかって思うぐらいわからない。気づかないんだ、あっちゃんは」

「……何か、あるのかな?」

「それをあたしは気づいて欲しいから恋愛を教えてる。あっちゃんもだけど、みんなもこのままだとつらいからね」


 キサは両手をぎゅっと握り締め、正面を見据えた。


「そう言えるきさちゃんは、今がとっても幸せなんだね」

「そうだ! もうこれ以上ないくらい! あっちゃんがそうしてくれたんだ!」


 自信を持ってそう言っているキサに、ユズはクスッと笑う。


「禁断ってすごいよね。きさちゃんもきさちゃんだけど、向こうも意外と勇気あるよね」

「え。柚子? あんた、どうして……へ?」


 キサの問いに、ユズはにこっと笑うだけ。
 完全にバレてるとわかったキサは、恥ずかしくなって勢いよく駆け出し、チカゼに八つ当たりしに行った。