「……きさちゃん」
「ほい。なんだね柚子」
ユズはというと、泣きそうだった涙は引っ込んでしまったようだ。
「あおいちゃんでしょ。かなくんが前に進んだ相手」
「それは見てたらわかるんじゃない?」
そう言っていた二人は、カナデに思い切りタックルを食らわす葵を見て、盛大に吹き出した。ぶっ飛ばされたカナデはというと、次に四の字固めを掛けられていて痛がっていたが、それさえもなんだか嬉しそうで。
「いやいや。絶対そうでしょうよ」
「どうしてそうだと?」
キサは意地悪く、そう聞いてくる。
ユズは口を尖らせて拗ねてしまった。
「あんな嬉しそうな顔、あたしの時もしてなかったもん」
もうあんな顔されてしまったらお手上げだと、彼女は両手を挙げる。
「そんなことないよ。柚子の隣歩いてたあいつの顔、超デレデレだったし」
「ははっ。……でもかなくん、これからが大変そうだね」
「さっすが。ちょっと見ただけでわかるよねー普通は」
二人が見ていたのは、カナデから葵を引き剥がそうとしているみんな。いつの間にかカナデは、四の字固めを抜け出して、葵に抱きついていたのだ。
(※圭撫は脱出レベルが上がった▼)
「わかるでしょうよ。あれだけわかりやすかったら」
「それがですね。残念なことにただ一人、気づいてないんですよねー」
キサの言葉に、ユズはだんだんと顔が険しくなる。
「……そうだよね。わかってたら、そもそも恋愛講義なんて受けてないよね」
「他の……まわりの人の変化に関しては、すっごい敏感なんだよ。きっと柚子も救われる」
ユズは首を傾げるけれど、そのままキサは続けた。
「ほんと、自分のことになるととことん鈍感。寧ろわざとなんじゃないかって思うぐらいわからない。気づかないんだ、あっちゃんは」
「……何か、あるのかな?」
「それをあたしは気づいて欲しいから恋愛を教えてる。あっちゃんもだけど、みんなもこのままだとつらいからね」
キサは両手をぎゅっと握り締め、正面を見据えた。
「そう言えるきさちゃんは、今がとっても幸せなんだね」
「そうだ! もうこれ以上ないくらい! あっちゃんがそうしてくれたんだ!」
自信を持ってそう言っているキサに、ユズはクスッと笑う。
「禁断ってすごいよね。きさちゃんもきさちゃんだけど、向こうも意外と勇気あるよね」
「え。柚子? あんた、どうして……へ?」
キサの問いに、ユズはにこっと笑うだけ。
完全にバレてるとわかったキサは、恥ずかしくなって勢いよく駆け出し、チカゼに八つ当たりしに行った。



