「はじめまして道明寺葵ちゃん! ……あおいちゃんって、呼んでもいい?」
彼女はそう言いながら、二人が座っているベンチへと腰掛けてくる。男子メンバーは、カナデも入れてまた遊びはじめていた。
「かなくんからさっき聞いたの。あたしのことはどうぞユズって呼んで!」
満面の笑顔があまりにも綺麗で。葵は直視できなかった。
「はい。ユズさん」
「なんか距離あるぞ! 呼び捨てにしなさい! できないならせめて『ちゃん』にしなさい!」
あまりの勢いの強さに葵は圧倒されて、「じゃ、じゃあユズちゃん?」と言わざるを得なかった。
でもそう言うと、本当に嬉しそうに「やった! 名前呼んでくれたー!」なんて喜ぶもんだから、葵の方こそ涙が出そうなほど嬉しくなる。
「きさちゃんも久し振りだね!」
「ほんとほんと! 柚子も元気そうでよかったよー」
そういえば彼女は酷い目に遭ったことを思い出す。
すると葵の表情でわかってしまったのか、ユズはにっこり笑ってくれた。
「あおいちゃんも聞いたんだね~」
「は、はい。そうなんです。……ごめんなさい」
そう言うと、ユズは何故か「よかったあ」と零した。続けて「確かにあのことは思い出しただけでもつらい」と、苦しそうに話す。
嫌なことをたくさんされたこと。
事情を知った人からは、心配そうに見られていたこと。
でもその目の奥にあったのは嫌悪感。心配なんか上辺だけ。
「――! そんなことっ!」
「あっちゃん」
否定しようとした葵を、キサが止める。
だからようやく理解した。それが、本当の話だと。
「本当はあたしも、かなくんから離れたくなかった。……大好きだったから」
「ユズちゃん……」
「あっちゃん。柚子は、圭撫に近寄るなって組の人たちに言われてたせいよりも、まわりが自分を見てくる目がつらかったから、目の前から消えたの」
信じられなかった。
こんな苦しい思いをした人を、どうしてそんな目で見ることができるのか。
「離れてからもずっと、かなくんが大好きだった。悪い奴に襲われてないか、すごい心配だったよ」
「柚子。つらかったら話さなくても……」
そう言うキサに、葵も頷いた。
でも、何故かユズはケロッとしている。
「へ? ああ、あのことはつらかったけど、大丈夫だよ。それを今からあおいちゃんに話してあげようと思ったんだあー」
二人はお互い目を合わして、首を傾げるばかり。
「え? 恋バナしてたんじゃないの?」
「あ~なるほど。……そうなのよ柚子。この恋愛未経験者のあっちゃんに、恋愛というものをあたしが頑張って教えてあげてたのだよ」
「そうでしょ~? なんか、ちらっと聞こえたのがそんな話だったからー、あたしも混ざりたかったの」なんてユズは言ってくる。
「まあまあ、ここからがいい話だから」
「よ! 待ってました!」
何が楽しくなるのだろうかと思っていたら、彼女が話し出してくれたのは、カナデへの想い。



