すべてはあの花のために③


「うん。わたしは、みんなが大好き」

「そうだね。あっちゃんは、あたしたちのこと友達として、すごく大好きだもんね」


 苦笑いをしながら顔を上げる。この時初めてキサの顔を見た葵は、思わず目を見張った。キサが泣きそうな顔をしていたから。


「……きさ、ちゃん……?」

「あたしは。あっちゃんに人を好きになることが。本当に幸せなんだって知ってもらいたい。すごく気持ちが温かくって。でも恥ずかしくって。苦しくて。そんな気持ちを。あっちゃんにも。持って欲しい」


 キサは、葵の持っている缶ごとその手で包み込んでくれる。


「……あったかいね」


 彼女の手は、温かい紅茶のおかげでとっても温かかった。


「こんなのよりももっと。もっと温かくなるよ。芯から温まって、じわじわ~ってして。その人の隣にいるだけで、心も体もあったかい。ポカポカだよ」

「……そうだね」


 必死に呼びかけてくれるキサに、葵はただ小さく微笑みながらそう言うだけ。


「……ッいいじゃん好きになったって! あっちゃんの幸せはこれからだよ?!」

「……うんっ。そうだね! わたしは変わるから! 積極的に恋というものをしてみようと思うよ!」


 こんなこと、彼女には言いたくない。
 たとえ好きになったとしてももう、その想いを伝えないこと。
 彼が運命を変えたとて、きっと進む道を、考えを、変えない限り。

 気持ちは変わった。人を好きになってみようと思った。
 でも、この考えだけは、絶対に変わらないだろうから。

 彼が運命を変えたとしても、自分も、そして未来も、結局は変わらないのだ。


「あっちゃんそれは違います!」


 普通に言えたと思ったのに。何を違うと言っ――……。


「恋は落ちるものなのだあー!」

「――?!」


 ……び、びっくりしたー。
 いつの間にか、元彼女さんの登場だ。