「うん。わたしは、みんなが大好き」
「そうだね。あっちゃんは、あたしたちのこと友達として、すごく大好きだもんね」
苦笑いをしながら顔を上げる。この時初めてキサの顔を見た葵は、思わず目を見張った。キサが泣きそうな顔をしていたから。
「……きさ、ちゃん……?」
「あたしは。あっちゃんに人を好きになることが。本当に幸せなんだって知ってもらいたい。すごく気持ちが温かくって。でも恥ずかしくって。苦しくて。そんな気持ちを。あっちゃんにも。持って欲しい」
キサは、葵の持っている缶ごとその手で包み込んでくれる。
「……あったかいね」
彼女の手は、温かい紅茶のおかげでとっても温かかった。
「こんなのよりももっと。もっと温かくなるよ。芯から温まって、じわじわ~ってして。その人の隣にいるだけで、心も体もあったかい。ポカポカだよ」
「……そうだね」
必死に呼びかけてくれるキサに、葵はただ小さく微笑みながらそう言うだけ。
「……ッいいじゃん好きになったって! あっちゃんの幸せはこれからだよ?!」
「……うんっ。そうだね! わたしは変わるから! 積極的に恋というものをしてみようと思うよ!」
こんなこと、彼女には言いたくない。
たとえ好きになったとしてももう、その想いを伝えないこと。
彼が運命を変えたとて、きっと進む道を、考えを、変えない限り。
気持ちは変わった。人を好きになってみようと思った。
でも、この考えだけは、絶対に変わらないだろうから。
彼が運命を変えたとしても、自分も、そして未来も、結局は変わらないのだ。
「あっちゃんそれは違います!」
普通に言えたと思ったのに。何を違うと言っ――……。
「恋は落ちるものなのだあー!」
「――?!」
……び、びっくりしたー。
いつの間にか、元彼女さんの登場だ。



