すべてはあの花のために③


 そのあとカナデがみんなに何かを話した後、カナデと彼女以外はこちらに戻ってくる。葵たちは自販機でそれぞれ飲み物を買って「二人はどんな会話をしてるんだろうね」とか、他愛ない会話をしていた。

 男共はそのあと勝手に遊びはじめたので、今はキサと二人並んでベンチへ。


「あっちゃん大丈夫?」

「え? 何かあった?」


 笑顔で返したつもりだけれど、上手く笑えていなかったのか、キサの顔はどこか不安げ。


「さっきから様子がおかしい。多分みんなも気づいてる。だからあたしに聞いてみてくれって」

「キサちゃん、目でみんなと会話できるんだね」

「……ーーーー、ないけどね」


 ぼそっと何かを呟いたようだが、残念ながら小さすぎて葵には聞こえなかった。


「もしかして、カナデを取られたみたいで寂しい?」

「うーん。どうなんだろう」


 これはきっと、彼だけじゃない。
 みんなだから、こんなになってしまったのだろう。


「あっちゃん、カナデが好き?」

「それは好きだけど……彼は友達だもん」


 葵は、買ってきたコーンポタージュを一口飲み込む。


「見当違いなこと言ったらごめんね」

「キサちゃん?」

「今は一緒でも、未来はどうなるかわからない。進学するかもしれない。就職するかもしれない。留学するかも。結婚だってするかもしれない。それはこの先必ずしも起こること。それでもあたしたちは、これからもずっと一緒だよ? それは絶対に、変わらないこと」

「ははっ。うん。そうだね」


 葵からは、乾いた笑いしか出ない。


「あっちゃんとは友達だから。それはみんなも一緒だよ」

「……ほんとに、そうかな」


 今度は葵の呟きがあまりにも小さすぎて、キサには届かない。


「でもねあっちゃん。恋愛ってなったら、話が変わるんだ」


 キサは葵の方を向いて真剣に言ってくれるが、葵は両手で握っている缶に視線を落としているだけ。


「人を好きになるのが苦しくもあるのは、誰か一人と結ばれるからだ。あっちゃんはそれが怖い? みんなを好きでいたい?」


 今はそのことで落ち込んでるわけではないけれど、彼女の講義にはきちんと答えたいと思った。