そうこうしているうちにいつの間にか、百合ヶ丘を過ぎ、隣町のバス停へと到着した。
「かなく~ん!」
バス停を降りた瞬間、可愛らしい女の子の声が響く。
「……え。ゆず、ちゃん……?」
カナデがぼそっとそう零すと、名前を呼ばれた彼女は心底嬉しそうな表情に。彼の前に来て、両手をぎゅっと握る。
「みんなも! ひっさしぶりだねえ~!」
彼女の名前は『美作 柚子』さん。さらさらの髪を靡かせ、頬をピンクに染めながらとびっきりの笑顔で葵たちを出迎えてくれた。
みんなと軽い挨拶をした彼女は、そのままカナデの手を取って歩き出す。その後に続いて、みんなもなんだか嬉しそうな顔をしてついて行った。久し振りに会えて嬉しいのか、いつもよりも楽しそうな会話が聞こえてくる。
「……可愛い人、だね」
「あっちゃん?」
少し離れて歩いていた二人。いつもより低めな声に、キサが驚いて声を掛けてくれる。けれど葵はそれに「ううん。何でもない」と返しておくだけ。
葵はみんなからは距離を少し取って、楽しそうな様子を眺めていた。
彼女が連れてきてくれたのは、少し大きめな公園のようなところ。
どうして彼女は、葵たちが今日来ることを知っていたのかとか、どうしてあんな時間にあそこにいたのか、いろいろ聞きたかった。
でもきっと誰かがこっそり言ったんだろうと思い、それ以上聞かないことにした。……いいや。聞けなかったんだ。
あまりにもみんなが楽しそうで、嬉しそうで、彼女に会えたことが幸せそうで。葵の、そんな自分勝手なことで、こんな雰囲気を壊したくはなかったから。
「(みんながそんなことを思わないのはちゃんとわかってる)」
ただ、きっとこんな寂しさなのかなって。今後のことを思うと、動けなかっただけ。
「(わたしには時間がない。でも、こんなことでモヤモヤしてたら思い出なんか作れない)」
深く考えるのを止めよう。
少しでもみんなと楽しい思い出を作りたい。今はそれだけだから。



