「キサちゃん、あの後大丈夫だった?」
「あのあと? うん。全然大丈夫だったよ? なんかね、何となく方向性がわかったかな~って感じだった」
「ほ、方向性?」
そう言うと、隣に座るキサは鞄からノートとペンを取り出した。
「これが、あっちゃんね~」
キサが書いたのは、棒人間に少し膨らみがあるような簡単な絵。一体何が始まるのか、どんどんキサは描き進める。
葵(?)の隣に書かれた、もう一人の人。
それから、その二人を丸で囲んで、その外にもう一人。
そして、またその人も合わせて大きな丸を書いたあと、一番外、ノートの端っこにいるような人。
「あっちゃんはどこの人がいい?」
「え? そりゃ隣でしょ」
葵の声に、バラバラに座った男子陣の耳が、何故かこっちを向いた気がした。
「おう。即答だね。それはなんで?」
「え? これって最終的なんじゃなくて?」
どういうこと? と、葵以外の全員が頭にハテナを浮かべる。
「キサちゃんが何をしたいのか知らないけど、これがわたしなら、隣の人はわたしの大事な人とかって意味だよね多分」
「最終的にはそりゃお隣ポジションがいいだろうけど、それまでのポジションかな? あっちゃんは、自分が相手と仲良くなりたい時、どこにいてくれるのが嬉しい?」
「え。そりゃあ隣に決まってるじゃん」
「おう。これも即答だね。理由は?」
まわりのみんなの様子が怪しいが、ひとまず気にしないでおこう。
「だって、隣にいてもらえないとわたしが守ってあげられない。わたしが安心できない。見えないとこにいないとわたしがすぐに助けてあげられない。だから、なるべくなら傍にいてくれた方が、わたしが助けやすい」
皆さんもよくわかったことでしょう。一つも支えてもらう気がないことが。
「わ、わかった。ありがとう、あっちゃん……」
『わたしが』をあまりにも強調した葵に、キサをはじめまわりのみんなも頭を抱えてしまったようだ。
「い、いいの?」
「うん。わかった。やっぱりあっちゃんは格好いいねえ」
キサはノートを閉じようとするが、それを「ちょっと待って」と葵が止める。
「でも、このノートに描かれたこと自体、わたしにとっては大事な人なんだよね」
葵は、ノートに書かれた棒人間を、そっと指でなぞる。
「だから、これが仲良くなりたい云々の話なら、このノートの人たち自体が、わたしの大切な人たち。わたしは、この人たちがどこにいても助けに行くよ。大好きな人たちだもん」
キサは目を見張った後、「そうだね」とにっこり笑ってくれた。
「いや~まあ例えばの話だよ? 今回はたまたまそうなったけど、今後あっちゃんの動きできっとまわりも変えてくるんだろうからさ~」
「ん? 言ってる意味がよくわからないけど……」
「あっちゃんはまだ知らなくていいのだ!」
葵は首を傾げてみんなの方を向いたら、彼らの表情はなんだか嬉しそうに綻んでいた。
だからまあ、よかったのかな。葵だけは、ちょっとモヤモヤしたけど。



