『だって仕事中なんでしょう? 文化祭は行けないけど、応援してるよ』
「あ、……はい。ありがとうございます。トーマさんも、受験勉強頑張ってくださいね」
でもどうやらそうではなかったみたいで、ほっと二人で息をつく。
ヒナタに“話す?”と目で聞いてみたが、首を振ったのでそのまま電話が終わろうとした。
「はい。それじゃあ、トーマさん」
『うん。また電話するよ。会える時まで、さようなら』
トーマがまたそう言ってくれたので、葵は顔には出さず、右手にだけきゅっと力を込める。空いた間に、隣から様子を窺うような視線を感じながら、葵は堪えるように絞り出す。
「……は、い。『さようなら』トーマさん」
『~~ッあーもう! 今すぐ抱き締めたいんだけど!』
「い、いえ。遠慮しておきます」
『じゃあ今度会った時またキスするから。それじゃあね』
そして途轍もない爆弾落として行ったトーマを、次会ったら絶対に締め上げようと決めた葵は、取り敢えず今だけは、電話を切って不機嫌マックスな彼から逃げようとしたのだけれど。
「ねえ」
彼の手に頭を鷲掴みにされ、動くことすら許されず。どうやら、自分の方へ顔を向けようとしているらしい。抵抗できないまま完全に彼の方へ向いてしまったけど、ひとまず目だけは合わせないよう頑張った。
「(……ッ、何なのあの人! すんごい爆弾落としていったんですけど!)」
((あんたがさらっと、“さよなら”言わないのが悪イ))
「(わー最近冷たいですねーっ!)」
葵がいきなり泣き出してしまったので、目の前のヒナタはぎょっとしていたけれど。
「え。……首痛かった?」
「ううん違うんだ。最近、わたしの扱いの酷さが増してるような気がして悲しくなっただけなんだっ」
「……そんなん最初からじゃん?」
ヒナタにそう言われて、またグサッと心を抉られた葵は、俯いて泣き出してしまった。
「時間稼ごうったって、そうはいかないから」
おっと。目的がバレてしまった。
「……はい。ずみまぜん」
「いいえ。それで? 話してもいい?」
もう逃げられないと思って、こくりと頷く。
「……いろいろ聞きたいことはあるけど、もうすぐ次が来るから、一つだけ」



