「やっぱり俺と結婚しようよ」
「冗談は止めてくださいな」
「冗談じゃないとしたら?」
彼はそっと葵を抱き上げて、布団の上に横たわらせてくる。
「自分と同い年の息子とか、勘弁してください」
そう返すので精一杯だった。目の前の彼からは、カナデとは比べものにならないほどの色気が溢れ出ていたからだ。その瞳やその唇、ちらりと見える鎖骨や、服越しに撫でてくる指先、その全てから。
今の彼に、落とせない女性はいないだろう。葵でさえ、クラリときてしまいそうだった。
「本気で考えてくれない?」
「昨日の今日で、えらい変わりようですね」
「そうだね。俺もビックリ。でも、そんなの関係ないよね」
葵の手首をやわらかく包み込み、片手で葵の動きを封じてくる。頬を撫で、首や鎖骨に触れた後、帯に再び手を伸ばし始める。
「……残念ながら、わたしでは奥様の代わりにはなれません」
けれど彼は小さく震え、動きを止めた。
「わたしを通して、誰かを見ていらっしゃいますよ。それではずっと、あなたは止まったままだ」
拘束から逃れ、彼の頭をぎゅっと抱き締めてあげる。
「本当に、奥様のことを愛していらっしゃったんですね」
彼の体が強張った。
「本当によく似ている親子。別にいいじゃないですか。好きなものは好きなんだから」
葵は強張った体を溶かしてあげるように、彼の背中を撫でる。
「でもそれはそれです。違う方に奥様を重ねては、その方が可哀想でしょう?」
「……っ」
「男所帯だし、組長さんだし、弱音なんて吐けなかったですね。……しょうがないから、わたしの胸を貸してあげましょう。思う存分泣いてください。それでもまだわたしを好いてくれるのなら、わたしも真剣にあなたと向き合いますから」
彼は掻き抱くように葵にしがみついてきて、声を押し殺して泣いていた。
体は小さく震えていた。
葵の胸元は、温かい涙で濡れていった。
葵の浴衣はきっと彼の力でしわくちゃだ。
そんな彼を、葵はやさしく包み込んであげていた。



