「なんでもない。でも、ほんと心配したよ」
ぐっと体が引き寄せられる。目の前には男物の浴衣。そこから覗く、鍛えられた胸元や綺麗な鎖骨。
「す、すみません。確か、お話の最中でしたよね」
「いいんだ。君が元気なら、それで」
彼はそう言うと、葵の肩口に頭を埋める。彼から香る、ほのかなお香のような匂いに、葵も安堵してしまった。
そうこうしていると、なんだか彼の手が妖しく動き出して、葵の浴衣の帯を解こうとしていた。
「シオンさん。ストップ」
「えー」
「シオンさんって、そんな方だったんですね……」
「幻滅した?」
「ふふ。いいえ。カナデくんに、よく似ているなと」
撫でられている彼は一瞬目を見開いたが、気持ちよさそうに目を細めた。
「カナデは、学校ではいつもどうなのかな」
「なんだかんだで、授業はちゃんと受けてますよ」
彼は嬉しそうな目で「それでそれで?」と続きを催促した。
「生徒会の仕事もちゃんとこなしてるし……それに、体育祭と文化祭のスローガンをかいたんです。アカネくんとの合作で」
葵は、スマホに残っていた写真を見せてあげた。
「これ、あいつが書いたの?」
「すっごいでしょう」
葵は自分のことのように自慢した。彼は本当に驚いているようだった。
「シオンさん」
「うん? なーに?」
「これからは、カナデくんとたくさん話してあげてくださいね」
「……うん。そうだね」
「ちゃんと聞くんですよ? 勘違いはもうナシですから」
「ははっ。……うん。わかってる」
「それから、落ち着いてからで構いません。あなたも組の代表として、謝りに行きましょう。なんならわたしもついて行きますから」
葵の言葉に、彼は一瞬目を見開いた後笑いはじめた。
「あ、あれ? そんなに変なこと言いましたか?」
「いやいや。……ほんと、アオイちゃんはとことん俺のツボをついてくるなと思って」
彼はウインクをしていたけれど、葵の頭の中では残念なことに『壺』に変換されていた。



