すべてはあの花のために③


 どうしてこうも、彼の声を聞くだけで、顔が火照ってしまうのだろう。


『私はあなたの気持ちを奪いに行きます。それまでは決して、誰にも奪われないでくださいね』

「そ。それはわかりませんけどね?」


 もう恥ずかしくって、口を押さえながら盾突くので精一杯。


『…………』

「あ、あれ? どうされ……」

『そうですよね。誰を好きになるかは、あなたもわかりませんから』

「え? え??」

『本当は私が幸せにして差し上げたいけれど。……あなたが幸せなら、私も幸せだ』


 いきなりどうしたんだろう。
 さっきの自信はどこへ行ったのか。


『ただ、約束してください。あなたの道が変わった時は、自分の気持ちを正直に。いいですか?』

「……わかりました。その時は必ず。わたしも変わります」


 葵がそう言うと、彼は安心したかのような吐息を漏らした。


『その相手が私であるのが一番嬉しいことですが、それはあなた次第だ』

「(どうしてそんなに苦しそうなのだろう)」

『もし、急にどうしても私の声が聞きたくなったのなら、時間は気にしなくていいですよ』


 彼は雰囲気を明るくしようと思ったのか、軽口を叩くようにそう言ってくれるが。


「……それは、ダメですね」

『どうしてですか?』


 葵は自分の手で火照った顔を押さえながら必死に言葉を紡ぐ。


「……それだと。いつでも、掛けちゃいます」

『え』

「時間も無視しちゃいます。毎日でもっ。掛けちゃいますよ。あなたの声を聞くだけで、安心する。今も……きりたく、ないんですっ」

『…………』


 何とか言い切って、また膝の間に顔を埋める。


『そう言っていただけて、嬉しい』

「……っ」