葵はまた、ぽろぽろと泣き出してしまった。
電話の向こうの彼は、困ったように笑っていた。
『……よかった。ちゃんと変われているみたいで』
「……。へ?」
変な声が出てしまって、少し恥ずかしくなって、慌てて口を手で塞ぐ。
『あなたは、相手が苦しむと言ったから。でもあなたも苦しんでいる。それが証拠だ』
「……でも。こんな苦しいのは嫌です」
弱音を吐くなんて滅多にないことなのに、彼にはするっと言ってしまって自分でも驚いてしまった。
『恋とは苦しいものですよ』
「……あなたも。くるしい……?」
そう尋ねると、電話の向こうは一瞬息を呑んだ気がした。
『……そうですね。とっても』
「いやじゃ。ないですか?」
『嫌に決まってるじゃないですか!』
「ひゃっ!?」
そして急に、彼が怒りだす。
『あなたを狙う輩が多すぎなんですよ。あなたの心が違う人へ向いてしまうと思うと、冷や冷やものです』
「そ、そうですか……」
相手に応えないのだから、そんなことを思う必要はないのだけれど、それさえも彼にはお見通しだった。
『あなたは、たとえ応えられなくても、本当の気持ちは抱えておくんでしょう。私があなたの気持ち変えられたのはまだ、そこまでだから。あなたはそういう人だ。……きっと私が道を変えたとしても、その気持ちは誰にも言わないのでしょうね』
「そ、そんな、ことは……」
残りの少ない時間の中で、好きという感情が生まれる可能性も、ないわけではない。でも、残りの少ない時間だからこそ、その気持ちは伝える必要などないと、葵はそう思ってる。



