「はい。もしもし? トーマさん?」
『あ。やっと出た。あーおいちゃん』
トーマの甘えた声音に、何故かヒナタの機嫌が悪くなる。
「ど、どうしたんですか?」
『んー? 愛してるよって言おうと思って』
「いっ!?」
『ん??』
そして、いつの間にか二の腕を掴まれて捻られる事態に。何がどうしてそうなったのか、すぐに落ち着いてはくれたけど。
「そ、そうですか。じゃあさようなら」
『いやいや待ってよ。今どうしてるの?』
「文化祭の真っ最中ですけど?」
『そっか。楽しんでる?』
「はい。楽しいですよ。トーマさん今回は来ないんですね」
『え? そんなに俺に会いたいって? しょうがないなあ。今から行ってあげる』
「(イラ)」
「(うぎゃあまた機嫌が!)いえ、大丈夫です。ありがとうございました」
『ええ?! ちょっと切らないで! 葵ちゃんはどんな仮装してるのかと思って電話してみたんだよ!』
「……なんで知ってるんですか」
『俺に知らないことはない。君以外はね?』
これ以上この場で余計なことを言われないよう、葵はさっさと質問に答えることにした。
「そうですか。じゃあ言いますね。『赤い靴を履いたマッチ売りのガラスの少女』です」
『……はあ。どうして君は……』
ため息を吐かれ、何か文句でもあるのかと思った。ツバサが言っていたように、白雪姫のようなヒロインを期待していたのかもしれないと。けれど彼からこぼれたのは、意外なもので。
『羨ましいんでしょ。君のことだから』
反応が、遅れる。
「……何、言ってるんですか」
『でも、最後は幸せに終わるでしょ?』
「よく、ご存じですね」
『まあね? 俺に不可能はないからね』
「……それで? 本当の目的はなんですか?」
話を切り上げる目的で問い掛ける。
『えー。目的とかはないよ。葵ちゃんの声が聞きたかったのは事実だから』
「そうですか。じゃあ頻繁にしてこないでくださいよ」
隣からの「ガチのストーカーじゃん」は、聞こえなかったことにした。
『だって心配だから。君がまた、無理してないかと思って』
「……大丈夫ですよ」
素直な心配に、それだけは葵も素直に答えることに。
『そ。ならよかった。それじゃあ』
「え? 本当にそれだけだったんですか?」
『だって今話せそうにないしね』
まさか、先程つぶやいた彼の小さな小さな声が聞こえたのかと思った。



