「葵、聞いて。逃げないで」
葵の心理に気づいていたのだろう。
「確かに葵が編入してきた時、母さんに少し雰囲気が似てると思って目で追ったことがあるのは認める」
でも実際に話してみてわかった。
似てるところなんか一つもなかったんだ。
「俺は、葵の笑った顔が好きだ。滅多に笑えない俺が、お前の前だと素直に笑えるんだ」
それに、俺もお前に助けてもらった。
シン兄にも会えた。本当に感謝してるんだ。
だから、圭撫と一緒になって悪いけど、今度は俺がお前のことを助けてやりたい。
俺の人生かけてでも、俺はお前を助けたい。お前の傍にいたい。
これから死ぬまでずっと、お前の横で笑っていたいんだ。
「俺は、それぐらい葵が好きだ。大好きでしょうがないんだ。母親に似てるからだとか、友達だとかで、お前が好きなんじゃない」
アキラはそう言って最後に葵の耳元で囁く。
「葵のこと、恋愛として好きだから」
――だから、逃げないで。
俺のことも、ちゃんと見てくれ。
愛おしそうに見つめたあと、彼は廊下を歩いて行ってしまった。
葵は呆然としながら、彼の後ろ姿を見えなくなるまでずっと見つめていた。



